第61話
呆気に取られていた二人は、私がポーションを使用したと分かると頭を下げてお礼をしてくる。
私は感謝の気持ちだけ受け取ると兵士長に向き直り、状況を聞く。
「侵入した暗殺者は八人。諜報部隊がばれないように一人ずつ捕縛していたのですが最後の一人が手練れだったため一般市民を人質に取られました。それが先程毒を受けていた二名です。犠牲を出しながらも暗殺者の捕縛に成功。ただいま領主邸にて拷問中です」
「どの国からの暗殺者かわかっているのですか?」
「それが身元が分かるようなものを一切持っておらず調べるにも何の手掛かりもないようです」
「それなら私を暗殺者のところに連れて行ってください。新しい魔法を試してみます」
兵士長は苦い顔をしていたが、立場上上司である私の言葉には逆らうことはできない。結局、暗殺者の元へ案内してくれた。
「先に私が入り諜報部隊の者へアリシア様が入ることを伝えてまいります」
そう言い兵士長は中の様子を確認していた。おそらく拷問している様子を私に見せたくなかったのだろう。
「まだ拷問は行われていないようです。中へどうぞ」
私は部屋の中へ入り、手足を金属で縛られた八人の暗殺者の様子を確認する。暗殺者たちはいっせいに私のことを睨み始めた。どうやらターゲットは私だったらしい。
「私は魔法を使って暗殺者たちの様子を観察します。紙とペンを持ってきてください」
それらは既に準備されており諜報員の質問が始まった。私の使った魔法は鼓動の音や口の渇きなど身体の特徴を把握する知覚の魔法である。一流の相手であれば通用しないであろうがこのような魔法は今まで存在しなかったであろうことから対策などされていないだろう。
諜報員が何度か質問を繰り返し「ユグドラシル聖王国」という単語が出た時に鼓動が早くなり口の中が渇いた兆候が見られた。
その後もいくつか質問が続き、次に拷問が始まるということで私の退室が促された。私も望んで人の苦しむ姿など見たくはないので外に出る。その時に体に変化があった質問をまとめた紙を諜報員へ渡しておいた。
諜報員は紙を一読した後。
「先ほどの魔法のご指導をよろしくお願いいたします」
と丁寧にお願いされた。私は近いうちに必ずと返してその場を立ち去る。
部屋を出た私が次に向かったのは領主邸だ。アポイントメントをとっていなかったため待たされると思っていたが意外と早く執務室へ通された。
「暗殺者に狙われたと聞いていたが元気そうだな」
部屋に入ると同時にこんな言葉をかけられた。私はどうやって意趣返ししてやろうかと考えていると。
「すまなかった。だからそんな顔はやめてくれ」
と言われた。どうやら顔に出ていたらしい。私は気を取り直して質問する。
「暗殺者の件、どこまで報告が上がってきていますか?」
「市民二人が毒の犠牲になり、君がその二人を治療したところまでだね」
「それならば話が早いです。二人に使ったポーションは世界樹の葉を四分の一ずつ使用した物です。その効果は絶大で毒で苦しんでいたのが嘘だったかのように回復しました」
領主様はこめかみに手を当て苦い表情をしている。
「そのポーションの在庫は?」
「ありません。今日、世界樹の元に薬草を植えに行きまして世界樹の葉を一枚頂きましたがそれは薬草の育成に使ってくれと精霊に言われました」
「世界樹の回復が最優先だろうから葉は薬草の育成に使ってくれ。それにしても世界樹の葉は毒すらも治療するのか・・・。これは王族や貴族が欲しがるだろうね。このことは内密で頼むよ。情報を伏せる」
「分かりました。私が伝えておきたかったことは以上ですが他に何かありますか?」
「世界樹の様子はどうだったのだい?」
「ああ。忘れていました。世界樹は周りの木のせいで日光不足のようです。樵の派遣が必要かと。あと道中ホーンラビットがいましたので護衛を付けたほうがいいと思います」
「分かった。手配しておく。聞きたいことは以上だ。下がってくれて構わないよ」
そうして私は領主邸を後にした。
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