第60話
水耕栽培に成功した翌日、私はウルフェンとリルを連れて世界樹の元へ駆ける。今までは魔物の陰などなかったがホーンラビットがちらちらと見えるようになっていた。まあ、ウルフェン達を見て逃げ出していたが。
世界樹の元に到着すると植えていた薬草は変わりなかったが世界樹の葉が六枚に増えていた。それを確認した私はまた、田植えのように薬草を地面に植えていく。今日持ってきたのは昨日、水耕栽培?した百株だ。
植え終わり周りを見渡すとウルフェンもリルも何かを警戒している。ウルフェンが見ている方角を眺めると小さな子どもがこちらを見て微笑んでいた。私と目が合った瞬間に森の奥に逃げ出してしまったが。
子どもが去るとウルフェンとリルは警戒を解いた。その時に双子の精霊が現れた。
「薬草植えてくれてありがとうなのです」
「世界樹がまた活気づいてきたのです」
「いいのよ。話しは変わるけれどこの辺りに私ぐらいの人間はいるかしら?」
双子はシンクロして首を傾げた。反応から見るにいないようだ。ならあの目が合った子供は何だったのだろうか。
考えてもわからないので頭の隅に追いやって世界樹の現状を確認することにした。
「それで世界樹の様子はどうなのかな?」
「日光不足なのです」
「周りの巨木が邪魔なのです」
「それは私個人ではどうしようもないから時間がかかっても大丈夫?」
「大丈夫なのです」
「葉が茂ってからでも問題ないのです」
そんな話をしている時にまたもや葉が一枚私の手元に落ちてきた。
「世界樹がもっと質の良い薬草を欲しているのです」
「前回は半分しか使っていなかったので今回は一枚使い切るのです」
やれと言われればやるしかないアリシアだった。それにしても世界樹は私をかなり信頼しているようだけれどいいのだろうか。と言うかこの二人は精霊なのだろうかと急に疑問が沸き上がってきたのでいっそのこと聞いてみることにした。
「世界樹は私のこと信頼しているようだけれどその所どうなの?」
「信頼しているのですよ」
「異世界人で世界樹をないがしろにした人物はいないのです」
そのとき私はドキッとした。だが記憶がないため私自身異世界人かどうかは分からない。
「何故私が異世界人だと分かるの?」
「魂と見た目の年齢があっていないのです」
「おそらく何らかの事故でこの世界に迷い込んだ人間なのです」
「その異世界人に記憶がないことってあるの?」
「人間さんは記憶がないのです?」
「そんな話は聞いたことないのです」
何の因果かわからないが私の記憶がなく王都に急に現れたことに説明がつく。家族がいないことに少し落胆したが私にはペルリタさんにウルフェン。今はリルまでいる。私は家族に恵まれていると感じた。
「分かった。なんとなくもやもやしていたものがすっきりしたよ」
「それならよかったのです」
「でも異世界人には何らかの使命があることがほとんどなのです。ほとんどで全部というわけではないのですが」
「まあ、覚えていないのだから気にしないで生きていくよ。それじゃ今日は帰るね。ウルフェン、リル。行くよ」
そう言って私は街まで戻った。帰ってきた街は何やら騒がしかった。私は門兵に質問する。
「街が騒がしいのですが何かあったのですか?」
「ああ。アリシア様。ご無事で。どうやら他国の暗殺者が紛れ込んだようでして既に捕らえられたのですが数名、毒を受けた様です」
「ウルフェン。屋敷に急いで戻って。リルは兵士についていって毒を受けた人のところに着いたら合図をして」
「わふわふわふ」
私はウルフェンに乗って屋敷に戻り世界樹の葉で作ったポーションを持ってリルが合図した地点まで急ぐ。幸い毒に侵されたのは二人でポーションを振りかけると苦しそうな表情から呆気にとられた表情へと変化していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます