第59話

私は世界樹の葉の栄養素が水に溶けやすいという性質を利用するために薬草の水耕栽培を試すことにした。まずは土壌の代わりに麻の繊維を使用した。なかなか薬草を繊維の中に植えることが出来ずに苦労したが最終的にはうまくいった。


次は水に酸素を混入させる機構だ。この部分には水車を利用し、その横に小さな水車を直結させることで大きな水車と小さな水車が同時に動くように設計した。設計したのは木工屋の店主であるが・・・。


水槽の中に半分となった世界樹の葉と葉をつけておいた水を流しいれる。水を足しながらちょうどいい栄養素になるように調整していると、水槽の幅を大きく超えてしまった。


「どれだけ栄養価が高いんだ世界樹の葉よ」


そんな独り言が出てしまった。


水槽を作り直し、百株を栽培できる区域を作ることができ、水車も三台稼働している。あとは経過観察だと思っていたのだが、栄養素の抜けた世界樹の葉が何かと気になった。


調合の目で見てみると、栄養素だけが取り除かれ魔力がそのまま残っていた。と言ってもその利用方法は分からない。とりあえず調合スキルで水と混ぜてみると、薬草がぐんぐん育った。


私は目を疑い三度見ぐらいしたがその最中にも成長し続ける薬草たち。実験は成功したのだが今までの施設作成が必要ないくらい世界樹の葉は万能だった。


実験が終了したのが午後二時ぐらい。今から世界樹の元に行くには時間が少し心もとないので街に諜報部隊の候補生を探しに来た。まあそう簡単に見つかる者でもないだろうと思っていたのだが、ついてきていた領主様の部下が次々に声をかけていく。


私は口をあんぐり開けてみていることしかできなかったが部下は結局七人の一見普通に見える男女を連れてきた。


「えーと。この人たちの採用基準は?」


「アリシア様に忠誠を誓えることと顔が平凡で覚えにくいことです」


どうやって忠誠を誓えると判断したのかは気になったが口にしないことにした。


「魔法の素養なんかは?」


「私が教えることには魔法の素養は必要ありません。アリシア様が開発した魔法に必要だった場合は次の候補生を探します。今までは魔法なしで諜報を行っていたので変わらない働きはできると思います」


「じゃあ訓練は第三屋敷を使用して。生活用品も整っているはずだから苦労しないでしょう。魔法に関してはどういったことができれば便利か程度でいいから考えついたら教えてちょうだい」


第三屋敷とはいつぞやのお金を使わないといけない騒動の時に貴族街の屋敷を買い漁った事件の副産物である。とはいっても普通にメイドなどを雇い入れ管理もしていることからいつでも売りに出せる状態に整ってはいるのだが。


それはさておき


諜報候補生の採用も決まり、私たちは屋敷に戻った。なんだか疲れてしまった私はお風呂係に湯船にお湯をためることをお願いして自室で紅茶を飲んでいた(なんかデジャブ)。


そして準備が済んだとの報告を受けお風呂へ向かうと例の双子の精霊がやっぱりいた。


双子は私が湯船に入るなり話し出す。


「今日育てた薬草を明日、世界樹のところに植えに行くのよ」


「あれは薬草としての性能も高いから世界樹が喜ぶのです」


「それは構わないのだけれど、急に環境が変わっても薬草に問題はないの?」


「問題ないのです」


「むしろ世界樹の葉の影響を強く受けているのでもっと良く育つのです」


「それにあなたはとても貴重なスキルを持っているのです」


「あなたの力を使えば一世代で世界樹の復活が果たせるのです」


スキルと言うのは調合のことかな。力を使えばっていうのは世界樹の葉の魔力を水と調合したことだろう。


「まあ、世界樹関連では協力するけれどほどほどでお願いね」


「「分かったのです」」

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