第62話

樵の準備が整うまで私は世界樹に通い続け薬草を植え続けた。その期間六日。このころになると世界樹周辺には薬草を植える場所はなくなっていた。


「これで世界樹も元気になるのです」


「次は世界樹の葉から抽出した水を撒くのです」


私の世界樹通いはまだまだ終わらないらしい。そこで私は少し気になることができた。


「世界樹の葉は万病に効くと言われているのだよね?」


「そうなのです」


「それがどうかしたのです?」


「その栄養を貰った薬草は毒を解毒したりできない?」


「分からないのです」


「気になるなら試してみるのです」


「えっ。薬草採取していってもいいの?」


「これだけ植えられていれば問題ないのです」


「あとは自然に繁殖するのです」


私は何とも言えない気持ちになったが採取していいとのお墨付きを頂いたため少しだけ採取して帰ることにした。


屋敷に戻り、薬草の成分を調べると魔力の値が屋敷で育てている薬草の倍以上になっていた。


「私、効能を上げるために結構苦労したんだけどなぁ」


なんてぼやいてみるが研究なんてそんなもんだと開き直る。


薬草と例の暗殺者が使っていた毒薬を混ぜてみると、毒薬が薬草の魔力に中和されていた。しかも薬草の魔力がまだ残っているため傷も治すことができそうだ。


「これは街に数本は確保しておきたい性能だねぇ」


私は世界樹の薬草でポーションを五本作った。二本は領主邸と私の屋敷に、一本は治療院に常備するように伝えて兵士へ渡す。メモも挟んでおいたので使い方は間違えないであろう。


そして七日目、樵の準備ができたので世界樹周辺へ移動した。樵たちはかなり緊張している。それは魔の森内の木を伐採すれば音を聞きつけ魔物が襲い掛かってくると言い伝えられているのだ。万全を期してウルフェンとリルも連れてきている。何とかなるだろう。


一時間かけて目的の場所まで着くと、休憩を挟み伐採を始める。樵が斧を振りかぶって木に叩きつけると斧がかけてしまった。鉄製の斧では魔の森の木に傷をつける程度しかできなかった。これは無理だと判断した樵たちは一時退散。


領主様に報告したところ、魔鉄を取り寄せることになった。魔鉄と言うのは鉄が長い年月をかけて魔力を含んだもので鉄よりも頑丈で重い。値段もかなり張るが買えない値段ではない。どちらかと言うと運ぶ方が大変で辺境のこの地まで運搬するとなると馬車が数台は壊れてしまうことが想定されるらしい。


馬車の作成は木工屋に頑張ってもらうことにして、領主様の命で魔鉄を取り寄せることとなった。かかる時間は三か月。世界樹も葉が茂るまでに伐採すればいいと言っていたので問題ないだろう。



魔鉄の発注を出して半月、リルが妊娠していた。なんだかお腹が出てきているなぁとは感じていたがそれがすごく大きくなっていた。ウルフェンも気づいたようでリルの周りをうろうろしてリルから威嚇されていた。


世界樹までの荷物の運び手がいなくなったことで世界樹の葉製の水は兵士が分担して運ぶようになり往復までの時間がかなり伸びた。まあ仕方がないのだが。


兵士がついてくるようになってからは双子の妖精は姿を現すことが無くなった。まあ用があるときには屋敷の風呂に勝手に入っているのだが。


そんな日々を二か月続けるとリルがかわいい子狼を四匹産んだ。一匹はアルビノ種なのか真っ白な狼だった。ウルフェンは子犬たちに突っ込んでいきリルから猫パンチを食らっているのが日常とかしていた。


それ以外には何の問題もなく残りの半月が過ぎようやく魔鉄がエラデエーレ領にたどり着いた。これで伐採ができると思いきや届いたのはインゴットでこれから斧に加工する必要があるらしい。この領に魔鉄を加工したことのある鍛冶屋はいないため試行錯誤しながら作業を進めるらしい。


世界樹の願いをかなえるのはもう少し先のようだ。

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