第55話
ゴブリンの襲撃から一月が経った。餌を与えていないはずなのにゴブリンの数が減る様子がない。ついにはゴブリンキングまで現れ、兵士たちの士気も低下している。まあ、ゴブリンキングはウルフェンに呆気なく窒息死させられていたが・・・。
それから半月後にはゴブリンキングが二体、ジェネラルも五体といよいよ総力戦の構えとなった。キングはウルフェンが無双して窒息死させ。ジェネラルは私の新魔法。その名もギロチンで頭と体を分断した。リルには雑魚の殲滅を任せた。一日がかりでようやくゴブリンの討伐を終えると、そのタイミングで領主様が帰還した。
領主様は街門と養殖場周辺の惨状を見て言葉を失っていたが、死人がいないと分かるとほっとしていた。
私も流石に死人がいないことには驚いたが、それは兵士たちの奮闘のおかげであろう。
あとウルフェン。だから血まみれの毛で頬ずりするのはやめて。
私は領主様に事のあらましを報告し、ゴブリンが集まっていた場所に何かあると踏んで調査の許可を求めた。しかし、流石に兵士たちも疲労困憊だったため調査は後日行うこととなった。
報告も終わり、私が領主様の部屋を出たとたん執事が執務室の中に入っていった。その後、領主様の悲鳴が聞こえたのだが私は精神の安定のために聞かなかったことにした。
それから半月経つと街の様子も安定し、行商も復活した。一月半に及ぶ戦闘で武器の摩耗が激しく鍛冶屋がうれしい悲鳴を上げている中、何とか装備が整った先鋭部隊と私たちはゴブリンのいた場所を調査しに向かうことになった。
領主様は王都に行った理由を私に聞かせていたが私がずっと上の空だったため諦めて調査の後に報告するということで折れてくれたのは内緒の話だ。
魔の森を進む一行の前には魔物一匹姿を現さない。それは逆に不安をあおったがウルフェンとリルが匂いを頼りに周囲を警戒していることから問題はないのだろう。三十分ほどで前回ゴブリンを観察した崖上まで到達した。
下をのぞき込むと一本の樹が葉を無くしてそびえたっていた。どうしてもその樹が気になった私は兵士たちを連れて崖を遠回りしながら下っていく。
樹の根元に到着すると一枚だけ葉が残っていた。その葉はものすごく魔力を含んでおり採取したい気持ちにかられたが一枚しかないという状況に躊躇してしまった。
その時、足元から声が聞こえてきた。
「世界樹の葉をとっては駄目なのです」
「世界樹はゴブリンのせいで瀕死なのです」
足元を見ると二人の子供が私に話しかけているようだった。私もまだ子供ではあるのだが私より背が低い。場所が場所のため警戒しているとその子供たちは急に姿を消してしまった。
「世界樹の葉は万病に効くと言われているのです」
「そして生命の芽吹きを早める効果があるのです」
「「人間たちがこの力の使い方を誤らないように見張っているのです」」
その声は兵士たちにも聞こえていた。しかし姿が見えなくなっていることから一部の兵士が精霊だ。と言い出した。
私はあながち間違っていないと思っていたが、頭の中はどのようにしてこの木を守るかを考えることでいっぱいだった。
結論としては定期的にこの場に来て魔物の間引きと調査を進めるしかないというものになり、私のルーチンワークに加えることとなった。
これで調査を打ち切りエラデエーレの街に戻った一行は領主の館へ直行した。そこで世界樹の話を出すと領主様が机を叩き立ち上がる。
そんな領主様に驚きの目線を向けていると。
「すまない。興奮してしまった」
そう言って座りなおした。
「それで世界樹の様子はどうだったのだい?」
「葉一枚を残して全て無くなってしまっていました。不思議な声を言うことを信用する限り瀕死であるとのことです」
「そうか。それは時間を掛けて自然に回復するのを待つしかないね。それはそうと気になっていたことも解決したのだから私の話を聞いてくれるのかな?」
私の逃げ道はどうやらないようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます