第54話
とりあえず領都防衛の指揮は私が取ることにして、領主代行は自分の屋敷で書類仕事を押し付けて軟禁することにした。
「まずはホーンラビットの養殖場だけれど、ゴブリンの死体を燃やしながら明かりを保持するように。大量の薪も必要でしょうからそこは冒険者に集めるのを頼みます」
「それは構わないが冒険者も半数が突撃して死傷している。ゴブリンがあふれている中で荷物となる薪を集めるとなると危険なのではないか?」
「ゴブリンは全て森の西側から来ていました。それ以外の場所が安全だとは限りませんが養殖場の近くの東側であれば比較的安全に薪を集めることが出来るでしょう」
「それでは我々兵士は西側の畑の警備ですか?」
「そうですね。ですが戦力は少なめで構いません。襲撃があればすぐに街に連絡できるように鐘を設置しましょう。そして、兵士たちは囲まれないように後ろに下がりながら戦闘するように指示を出しておいてください。畑を守り切るのは今の戦力では無理です」
「了解しました。街の防衛はどうするのですか?」
「ある程度は街門の耐久力に任せながら、休憩中の兵士に対応してもらいます。魔法師も主に街に待機してもらい遠距離で数を減らすのが理想ですね」
全員の行動が決定したことでそれぞれ作業に入る。王都にも応援を呼ぶ部隊を送りたいが戦力が足りない今、領主様たちが帰ってくるのを待つほかない。
幸い、その日はゴブリンの襲撃がなかったため、襲撃に備えた準備を進めることが出来た。
ゴブリンが攻めてきたのは明朝、場所は養殖場だった。昨日よりも多くのゴブリンに加えジェネラルらしき大きなゴブリンもいる。私はウルフェンとリルにジェネラルを任せる。
戦闘が始まった瞬間、ジェネラルの顔には水球が現れ水をはがそうともがいている。その光景に兵士たちの指揮は高まる。結局ジェネラルは何もできずに息絶えた。大将がやられ浮足立ったゴブリンをリルが爪でどんどん切り裂いていく。兵士とウルフェン達でゴブリンを挟みうちにしてゴブリンを逃がさないようにしながら討伐していった。
一時間程で戦闘は終わり、数匹のゴブリンを取りのがしただけでこちらの被害は皆無。狙いが養殖場だったことからもおそらくではあるが森に食料が足りていないのだろうと推測される。
それもそのはず、いまでもホーンラビットの捕獲は続けており、養殖場には三百を超えるホーンラビットが生息している。それにウルフェン達が狩りをするおかげで中層に位置する魔物まで浅瀬に出てきている状態だ。魔の森の生態系に大きな変化が起こっているのだろう。
戦闘が終わるとウルフェンとリルが街に戻ってきた。ウルフェンは魔法で攻撃するので土ぼこりで汚れている程度であるが、リルは返り血で汚れまみれだ。この時のために私はお湯を出す魔法を使える使用人を呼び出しておいた。
お湯で丹念に毛を洗うと、周りに結界を張り廻られる。それを確認するとウルフェン達は犬のごとく体をブルブルと震わせ水気を飛ばす。リルは風魔法を使えるので体を乾かしながらブラッシングしていくといつもの通りきれいでふわふわの毛に生まれ変わった。
私は街門近くの兵舎へ入ると、二匹の狼のモフモフを味わいながら休憩していた。いつの間にか寝てしまっていたようだが、ゴブリンの襲撃はなかったようだ。
だが、問題がなかったわけではなかった。
「領主代行が屋敷より逃亡しました。幸い重要な書類は持ち逃げできていないようです」
私は領主様の人を見る目を疑わずにはいられなかった。
「とりあえず私の屋敷の執事に代わりを任せておいて。時間があるときに私が決算するわ。他に当てがあるのならその人に任せてちょうだい」
兵士長は残念そうに首を振る。それはそうだろう。兵士と文官では全くの畑違いだ。いい人材など知っている方が貴重だろう。
こうして私は領主様が帰るまでの一月半地獄のように仕事に追われることが決定した。
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