第52話

リルが屋敷に来て一か月、リルもようやく屋敷に入る前に足を洗うようになった。まあ相変わらずいちゃいちゃしているのを周りに見せつけているのでメイドたちからは嫉妬の目線で見られている。


そんなある日に領主様より手紙が届いた。内容は王様より召喚状が届いたため二か月半ほど留守にするという連絡だった。ついてきたいのであれば一週間以内に連絡すれば同行できるとのことだが、最近魔の森に向かい怪我をして帰ってくる人が増えている。その薬草は私が栽培しており管理は私一人で行っているため私がここを離れるわけにはいかなかった。


領主様は私が残ると聞いて、業務を私に押し付けようとしていたが。


「十歳の子供に領地運営させるつもりですか?」


の一言で撃沈していた。まあ色々と運営には関わってしまっているのでいまさらではあるのだが。


結局、領地の運営は領主代理を任命しその人に任せることになった。私の感想では決断力に欠けていて緊急を要する場合には役に立たない気がしている人物だった。


領主様が出発して一月半。嫌な予感は当たるものだ。


今までなりを潜めていたゴブリンが急に街を襲撃し始めた。領主代行は冒険者ギルドに緊急依頼を出し、戦力を確保。兵士たちも動員し防衛線を選択したようだ。


これを実行してしまうと、ホーンラビットの養殖場と畑の穀物は食い荒らされてしまうだろう。


私は独断でこの二つの施設と街門の前で正面戦闘を実行した。今まで散々街に貢献していたおかげで私についてきてくれる兵士が多くいたことが幸いした。


「ウルフェン、リル。ゴブリンの親玉を発見し次第、討伐してちょうだい。それまで遊撃を頼むわ」


「わふ。わふわふ」


リルはまだ言葉を理解できないためウルフェンが通訳している。そんな光景を見てなごんでいる集団がいたが今はそれどころではない。


「ホーンラビットの養殖場には警護についている兵士にゴブリンの襲撃を伝えて。襲ってくるゴブリンを討伐するだけでいいわ。逃げるゴブリンは放っておくようにしっかり伝えてちょうだい」


「麦の畑は防衛の人が足りないと思うわ。戦況がゴブリンに傾き次第、撤退するように伝えてちょうだい。指揮は冒険者ギルドのギルドマスターに任せるわ」


「街門周辺の指揮は私が取るわ。まずは街門を閉めて街の住民の安全を確保よ。その後は魔法師部隊の先制攻撃、その後は乱戦になるはずだから魔法師は後ろに下がりなさい。通用口を死守してポーションを運搬できるように準備しておきなさい」



私が命令を出し終わった時に領主代理が到着したがかなり怒っていた。説明する暇も惜しいため無視していたのが急に静かになった。振り向くと兵士長が腹に一発いい一撃を入れたらしく領主代行は気絶していた。


数分もするとホーンラビットの養殖場周辺から戦闘の音が聞こえてきた。予想通りホーンラビットが狙いだったようだ。私はウルフェンとリルを戦場へと向かわせる。


ウルフェンとリルが駆け出して数分で街門周辺にもゴブリンが大量に現れた。魔法師たちの攻撃魔法でかなりの数を討伐できたので残りは兵士たちに任せている。


ホーンラビットが狙いだと感じていたが、それにしては街門に集まっているゴブリンの数が多い。何か思い違いをしているのではないかと考えに没入していた私にホブゴブリンが棍棒を振り下ろしていた。



もちろん全身を覆うように結界を展開していた私に傷の一つも付けることはできず、インパクトの魔法でホブゴブリンの顔面を吹き飛ばす。


ホブゴブリンが倒れたのと同時に多くのゴブリンが街門前から引き返していく。兵士たちは興奮しているのかそれを追撃しようとしている。


「追撃は不要よ。魔法師部隊。逃走しているゴブリンに一撃魔法を放ちなさい」


そう指示を出すと後ろで待機していた魔法師たちが次々に魔法を放つ。街門前は安堵の空気に包まれたが私は何かあると油断できないでいた。

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