第48話
ホーンラビットの養殖が軌道に乗ってから一年半の時が過ぎた。私は九歳になったが魔力量がとてつもなく増えた以外には変わりはない。しかし、街の方はすっかりと変わってしまった。
まず、ホーンラビットの数が二百前後だったのが四百前後。倍にまで増えた。それは街門を改築したことでその廃材(石材)を養殖場に再利用することで敷地が格段に広くなったためだ。
そのホーンラビットもどんどん子供を産むので軍だけでは消費しきれなくなり、一般人の食卓にまでお肉が並ぶようになった。また、冒険者も森へ出かける頻度が減り、養殖場周辺の警護、牧草地の警護などの仕事が増えた。
ホーンラビットの毛皮や干し肉の販売も活性化し、街の収入も増えた。ここまではいいことだらけだ。
問題点としては、街の活性化により移民がとてつもなく増えた。その人々は冒険者ギルドのギルドカードという身分証を持っているためないがしろにはできない。街の中には入れはするのだが、まだ街壁の拡充が済んでいない街には土地が圧倒的に足りなかった。
また、移民に充てる職業もない。ギルドカードを持っているため冒険者ギルドで仕事を斡旋しているのだがどうしても今まで冒険者が行っていた森での狩りとなる。
森に慣れていないものが魔物の多く生息する森で怪我をすることなく帰ってくることは非常に困難である。その結果として、治療を受ける人が増えた。費用はもちろん冒険者ギルドへの借金だ。
つまり、冒険者の一部の扱いはホーンラビットの養殖場ができる前と変わらなくなってしまった。
と言うわけで冒険者ギルドを交えて会議が行われた。場所は冒険者ギルド会議室。街からは領主様と私、それに財務担当が一人。冒険者ギルドからはギルドマスターと副ギルドマスターの受付嬢だ。会議が始まると同時にギルドマスターが話し始める。
「冒険者ギルドとしましては、街からの仕事の斡旋と冒険者が治療代として借りている借金の返済を求めます」
「それで、対価として何が差し出せるのだ」
と領主様。それを聞いた冒険者ギルドの二人は顔を顰める。冒険者ギルドは身分証を発行しているがそれがエラデエーレではかえって問題となっている。冒険者ギルドが下手に身分を認めているせいで街が人であふれかえっているのだ。もちろんその冒険者に対して冒険者ギルドは仕事の斡旋などできていない状態だ。
だからこそ領主サイドの私たちに冒険者ギルドへ仕事の斡旋を頼んでいるのだろう。
「冒険者ギルドからは働き手以外に差し出せるものはございません」
と受付嬢が答えた。領主サイドもそれは把握しているが今は人手が余っているのが現状だ。できれば魔の森の探索を行い、安全な場所を確保してほしいところではある。だが森への仕事を斡旋した結果が治療代の借金として冒険者ギルドにのしかかっているのだ。
「こちらから出せる仕事としては溝の掃除。ホーンラビットの解体、また、皮の処理。それだけです。それ以外は他の冒険者を街で雇用しているため、仕事を回すことはできません。まあ魔の森の魔物討伐は冒険者ギルドで行っていただきたいのが本音ですが、治療費が嵩んでいる現状はこちらで請け負うしかないでしょう」
と財務担当が話す。続けて治療費について追い打ちをかける。
「そちらが望んでいる治療費を払うことは今の景気から申し上げますと可能です。しかし、それを行ってしまうと冒険者を受け入れる意味が本当になくなってしまいます。それでもよろしいですか?」
この発言に冒険者サイドは顔を青くした。それもそのはず、領として冒険者の必要がないと言われたと同然なのだ。冒険者は兵士と違い維持費がほとんどかからない。しかし、今のエラデエーレ領は兵士を多く抱えてもホーンラビット産業で潤っているのだ。
結局この日の会議では何の解決策も見つからず終わりを迎えた。
ちなみに私は一言も発していない。本当にこの場に必要だったのかは謎のままだ。
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