第25話

エレノラさんが帰った後、数名の冒険者が治療に来ただけで時間は過ぎていった。最近はほとんどお客さんが来ていなかったので、なにがあったのか聞いてみた。


「実は、荷馬車がゴブリンに襲われる被害が最近多発しているらしくてな。それで、ゴブリンの討伐料が上がったからゴブリン討伐に向かう冒険者が増えているって話だ。だけど普段討伐依頼をしていない俺らなんかが怪我をして帰って来ているってわけだ」


私はその話を聞きながら傷を丁寧に治療していく。この話を聞いても私にできることは怪我人を治療することだけだ。だが今後、怪我人が増えていくかもしれないということだけ頭の隅に入れておくことにした。


夕方になってペルリタさんが戻り、お店を閉めた。それでも閉門ギリギリまで狩りをしていた人たちが治療を求めてお店に来ていた。ペルリタさんは怒っていたがそのまま返すわけにもいかず私に治療を押し付けていた。勘定はペルリタさんが行い、営業外の手数料をしっかりと貰っていた。


その後、夕食の時間となり話をしながら食べる。


「今日、商業ギルドの前を通ったのだけれど、どうやら荷馬車がゴブリンに襲われたらしいね」


「はい。それでゴブリンの討伐料が上がったので冒険者たちが討伐に向かっているらしいです」


「それでさっきの奴らは門が閉まるギリギリまで討伐していて店に駆け込んできたってわけかい?」


「話を聞く限りではそうみたいですね」


「全くこちとら疲れているのだから、営業時間外に押しかけるのはやめて欲しいね」


治療したのは私なのだけれどなんてことは言葉にできない私であった。


次の日、朝一番にエレノラさんが訪問してきた。まだお店も開けておらず、もちろんペルリタさんも出かけていない時間である。


「アリシア様。昨日申し上げた通りガラス瓶をお持ちしました」


その声にペルリタさんが反応しお店の方へ向かっていった。


「店はまだ開いていないよ。商業ギルドはいつから営業時間外に押しかけるような人間を置くようになったのだい?」


「これは失礼いたしました」


「それはそうと、商業ギルドがそんなに急ぐようなものをアリシアが作ったのかい?」


「えっ。ペルシア様はポーションの詳細をお知りになられないのですか?」


「知らないよ。そのあたりはアリシアに任せてあるからね。私は護衛探しで忙しいのだよ」


「護衛でしたら商業ギルドから紹介できるかと思われます。それとポーションの効果は一度確認していた方がよろしいかと思われます。この後、実験が始まりますので同席されてその後護衛の話をするということでどうでしょうか?」


「そのポーションは商業ギルドがそこまでしてでも手を出したい物なのかい?」


「はい。これまでの治療が廃れかねません」


エレノラさんの発言が気になったのか。それとも、護衛の紹介を喜んだのかペルリタさんが急に笑顔になった。


「アリシア。ポーションは今作れるの?」


「はい。材料は揃っていますので持ってきて頂いたガラス瓶の数量程度ならすぐに作れます」


「ならすぐに準備してちょうだい。今日は商業ギルドに行ってもろもろ用事を済ませてくるわ」


今まで感じたことのない圧力でそう言われ、私は急いでポーションを作る。二十分程で作り終えたらペルリタさんとエレノラさんは出ていった。


私はなんだか今後が怖くなったので裏庭に向かい、ウルフェンをモフモフして心の安定を求めた。するとドゥニさんがやってきたが、私の姿を見てそっと薬屋の方へ向かっていった。


そんな安らぎの時間は午後まで続いたがお客さんの来店により終わりを告げた。その人は冒険者仲間に両脇を抱えられて意識のない状態で運ばれてきていた。その腹部には剣で切られた跡がくっきり残っていた。

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