第26話

腹部を切られていた冒険者たちを急いで家の中に入れ、私は店を閉めた。まずは血を落とすために給水の魔法で傷口を洗う。血は大量に出ていたが、思ったよりも傷口は深くなかった。しかし、肉の一部はつぶれており、切れ味の悪い剣で強引に切られたようだった。


幸い傷は内臓までは届いていなかったため、血管を縫合してから傷口を縫い合わせていく。時間はそれなりにかかったが今できる処置はこれしかない。ポーションが使えればしっかりと治すことができたかもしれないがない物ねだりをしても仕方ない。


応急処置が終わったことで一息ついた私は何があったのかを冒険者たちに尋ねた。


「私たちは三人でパーティを組んでいて、最近はゴブリンの討伐を受けていたのです。今日もゴブリンを討伐していたのですが、大きなゴブリンが現れて混乱したすきにこのざまです。幸い近くに他の冒険者がいて私たちの離脱を助けてくれたため何とか助かることができました」


その話を聞き、もしやと思い私は店の外を見た。すると怪我人が行列を作っていた。私はすぐに店を開けた。私はドゥニさんに指示を出す。


「怪我人を見て回って重傷者を先に治療できるように列を整理してください」


ドゥニさんはそれを聞き、外に駆け出していった。私はウルフェンを呼び、桶に水を大量に出してもらう。私の魔力消費を少しでも抑えるためだ。


治療は夕方になっても終わらず、ペルリタさんが帰ってきた。しかし、私はペルリタさんに結界の魔法を教えていない。結局最後まで傷口の縫合は私が行い、ペルリタさんはその補助をしてくれた。


日が落ちた頃、ようやく怪我人の治療を終えた私は、疲れ果てて眠ってしまった。


次の日ペルリタさんから話を聞くと。


「特に傷のひどかった冒険者はアリシアの部屋に寝かせているよ。ほかに空き部屋なんてないしそのまま返すわけにもいかなかったからね。残りは冒険者ギルドに行かせてゴブリンの状況を説明させに行った。それだけだよ」


とりあえずはあの後何事もなかったことに安心した。その時、お店のドアが叩かれた。ペルリタさんは嫌な顔をしながら店を開けるとそこには、鍛えた身体をした白髪の爺さんとエレノラさんがいた。突然白髪の爺さんが話し始める。


「そっちの嬢ちゃんは知らん顔だな。儂は冒険者ギルドのギルドマスターをやっとるヨナスだ。今日は緊急の要件があってきた。儂が国王にゴブリンのスタンピートの話をすると騎士団の派遣と冒険者への協力要請が来た。だがそちらも知っている通り冒険者はほとんど傷持ちでゴブリンとの戦闘なんてさせたら傷が悪化しかねん。それで商業ギルドが実験をしているポーションを例外的に使用が許可された。今日来たのはそのポーションの作成依頼だ」


「ポーションを作っているのはこの子だよ。私も作り方を教えてもらっていないから今日教えてもらうとしてゴブリンの状況はどうなっているのだい?」


「状況は最悪に近い。ゴブリンの発生地点を特定できていないばかりか、上位種の存在まで確認されている。数からいってゴブリンキングまでいる可能性まであるな。それに冒険者の士気も最悪だ。すでに何人かは別の国への非難を始めている。戦力としては騎士団が頼りだな」


「分かった。とりあえずポーションは準備しておく。エレノラもそのつもりでここに来たのだろう?」


「はい。昨日作っていただいたポーションを治療に当てていただこうかと思い持ってきました」


ペルリタさんが私を見るので返事を返す。


「それは不要です。薬草以外は材料が残っていますので作り直します。それよりも実験で大量摂取した場合の検証をなるべく早く進めてください」


「分かりました」


そう言ってエレノラさんは走り出した。


「ヨナス様。冒険者でポーションの使用を望むものを連れてきてください。その間にポーションを用意しておきます。そして以前お願いしたことのある薬草採取を護衛と一緒に行っていただけませんか。このまま長期戦になることを考えると薬草の数が足りません」


「二つとも了承した。ほかには?」


「ありません」


そういうとヨナス様も外へ駆け出していった。私とペルリタさんはポーション作りに取り掛かる。

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