第12話
魔術師ギルドを後にした私たちは一旦家に帰り、オリーブと大豆を持って鍛冶屋に向かうことになった。どうしてそうなったかと言うと昨日見せた遠心分離機を作ってもらうためだそうな。私はどうも気が進まなかったがペルリタさんに手を取られてしまい仕方なく鍛冶屋に向かっている。
「ごめんくださ~い」
ペルリタさんが大声で来店を知らせているが工房からは誰も出てこない。奥の方からは鉄を打つような音が聞こえてくることからも仕事中なのであろう。私は帰って後日また尋ねるのかと思っていたが、ペルリタさんは置いてあった椅子に腰かけた。どうやら仕事が一段落着くまで居座るようだ。
待つこと一時間半、ようやく鉄を打つ音が止み奥から筋肉もりもりのおじさんが姿を現した。おじさんは私たちを見つけると一言謝ってカウンターの向こうに置いてあったのであろう椅子に腰かけた。
「久しぶりだな。ペルリタ。今日は何の用だ?」
「用がないと来てはいけないのかしら?まあいいわ。実は作ってもらいたいものがあるのよ」
そう言うとペルリタさんは私を見て合図を出す。私は遠心分離機とついでに圧搾機の模型を色付きの結界で見せる。いきなり現れた機械もどきにおじさんは驚いていた。
「まずこちらは圧搾機と言います。用途は木の実を潰して油を搾り取ることを想定しています。次は遠心分離機です。こちらは例えばハチの巣からはちみつを取り出すときになんか利用できます」
そう言って圧搾機を使ってオリーブの実と大豆から油を搾り取り、大豆の油を遠心分離機にかけレシチンを取り出す。私はそれぞれ取り出したものを竹筒へ入れて機械の説明を終えた。おじさんは目が飛び出るかのように機械を見つめ、それぞれの部品を見ている。一段落着くとおじさんが話始める。
「遠心分離機の方は仕組みが簡単だったから何とかなるが、圧搾機の力を込める部分が問題だな。これは作れるかどうかが分からん。試してはみるがあまり期待はしないでくれ。それとこれは商業ギルドへの登録は済ませたのか?」
「とりあえず二台とも試作品を作ってみて。それと商業ギルドへの登録は明日行くつもりよ。あなたもついてくる?」
「それは遠慮しておく。登録の確認をしたのはさっき言った難しい部分が他の機械にも流用できるのではないかと思ってな。それ単体で登録した方がいいと助言しようと思っただけだ」
さっきから難しいと言っているのはネジの部分だ。私はこの世界にはネジも存在していないのかとガッカリした。
「そうなの?アリシア、明日商業ギルドに行くまでに準備しておいてね」
「はーい」
「こちらの要件は終わりよ。ほかに何かあるかしら?」
「いや。この機械?ってやつを図面に起こさなきゃいけないんだが・・・」
それからみっちり一時間、おじさんは隅々まで私が結界で作成した機械を見て図面に起こしていた。しかも気が利くことに商業ギルドに提出する用の図面まで書いてくれた。これで明日の商業ギルドでの説明が楽になりそうだ。図面を貰ってお礼を言ってこの日は鍛冶屋を後にした。何か疑問点や進展があった場合にはお弟子さんが薬屋を訪問することになった。
午後になってやっと家に帰り着けた私はウルフェンと一緒に庭を駆け回っていた。ウルフェンは拾ってきたときはまだ歩けるようになったばかりの赤ちゃんであったが今では中型犬サイズになっている。問題はそんなことではなく何故か水魔法を使えるようになっており上空に打ち上げて遊んでいることだ。しっかり制御はできているようで洗濯物を濡らしたり近所に迷惑をかけることはしておらず、今では裏庭の薬草の水やりはウルフェンの仕事になっていた。ペルリタさんにウルフェンが魔法を使えるわけを聞いてみると、毎日行っている鏡合わせの儀の影響だろうとのこと。上空に水を打ち上げるのは誰かを真似しての行動だろうと言っていた。私の額から汗が零れた。
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