第9話

商業ギルドを後にした私たちは真っ直ぐ家に帰った。夕食を食べた後ウルフェンと遊んでいる時にふと気になったことをペルリタさんに質問する。


「アロエ軟膏を商業ギルドでも検証するって言っていたけれどどのように検証するのでしょうか?まさか人を使うわけにもいかないでしょうし」


「そのまさかよ。薬品の検証には犯罪奴隷を使うのよ。そして犯罪奴隷を死なせるような効果があった場合には賠償が発生するわ。だから薬品を商業ギルドに持ち込む人はほとんどいないわね」


私は驚愕した。いきなり試薬に人間を使っていることにも驚いたが、軟膏を商業ギルドにすぐに持ち込んだことに。


「なぜ軟膏をすぐに商業ギルドに持ち込んだのですか?」


「私、なかなか医療が発達しない現状に不満があったのよ。それで軟膏なんて面白い物を開発するのだもの。嬉しくなっちゃってつい。ああ、もちろん賠償があった場合は私が支払うわよ。これでも小金もちだから任せなさい」


これには私も呆れてしまったが、確かに医療の発展のためにはこの方法の改善が必要だろう。私はネズミを使った試薬の方法をまとめることにした。


「ペルリタさん。紙とペンを貸してください。試薬の方法を改善するための提案書を書きます」


「それは魅力的だけれど家に商業ギルドで扱っているような紙はないわよ。それにあなた字を書けないでしょう。字は明日から教えてあげるから今日は鏡写しの儀をやって休みましょう」


そうだった。言葉は日本語で通じているのだけれど、字は全く分からなかった。主導権をペルリタさんに握られてしまったため、私は言われた通り今日は休むことにした。


次の日になると文字の練習や裏庭の薬草の世話などで時間がどんどん過ぎていく。私が発見した双葉の薬草も枯れることなく成長している。そんな調子で一か月を過ごした。文字もある程度マスターしたことでお預けになっていた試薬の改善案を木版に書き起こし、新しい魔法の開発に着手したりしていた。そんな日常を送っていた時に商業ギルドより訪問があった。


「アリシア様が開発されたアロエ軟膏ですが一か月は効果があることが認められました。ただし三週間で効果の低下がみられましたので、販売する際には作成から二週間以内のアロエ軟膏のみの販売としてください」


そう言って商業ギルドの人は帰っていった。その後で木版のことを思い出したが、次に商品を開発したときにでも持っていくことにし、忘れていた竹の容器の生産をお願いしに近くの木工屋へと赴く。


「ヤルシオ。いるかしら?」


ペルリタさんが声をかけると、いかにも職人といった鍛えた筋肉を纏った親父といった雰囲気の男の人が現れた。


「ペルリタか。久しぶりだな。今日は何の用だ?」


「実は娘が作ったこの入れ物を作って欲しいのだけれど」


そう言ってペルリタさんは私が作った第二号の竹の容器を差し出す。ヤルシオさんはそれを観察して確認が終わると話し始める。


「これは商業ギルドには?」


「持ち込んでいるわ。レシピの登録も許可されているわ」


「なら後で確認してくる。材料は竹で安価だし、作業も楽そうだ。レシピの使用料次第だが三個で銅貨一枚ってところだと思う。これはどのくらい必要なんだ?」


「なら一月で二十一個お願いするわ。それで足りないようであれば別途こちらから依頼するわ」


「分かった。明日には完成するだろうから弟子にもっていかせる。代金はその時にくれ。それと契約書はどうする?」


「不要でしょう。そんなに高価な物でもないし、長い付き合いだもの」


「分かった。ところでお前に子供なんていたのか?」


「拾ってきたのよ。才能がありそうだから今後もよろしくね」


一応紹介されたので私はぺこりと頭を下げる。すると頭を下げ返された。律儀な人の様だ。


「じゃあ私たちはこれで失礼するわよ」


そう言って私たちは家へ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る