第5話

蜜蝋を買い取った帰り道、私は周りをキョロキョロ眺めながら帰路につく。その途中で竹藪を見つけた。竹があるなら軟膏の入れ物を作るのに役に立つかなと思いペルリタさんに質問する。


「あの竹は採ってもいい物なのですか?」


「あそこは誰の土地でもないから採ってもいいはずだけれど森が近いから魔物が出るかもしれないから危ないわよ」


そんな話をしていると竹藪から一匹の小さいウルフが出てきた。ウルフは何やら匂いを嗅いで私たちを見つけると駆け寄ってきた。するとペルリタさんが私の前に立ちはだかりウルフと私の間に立った。ウルフは私たちの周りを駆け回り私の正面に立つと手に持った桶を見ながら吠え始めた。よく見るとウルフは痩せており、威嚇しながらも少しふらついている。私は蜜蝋を手に取るとウルフの前に差し出した。


「ダメ!」


「いたっ」


ペルリタさんが止めるのが少し遅く、私はウルフに噛まれてしまった。思わず手を振り回しそうになったが、それでは傷口が広がってしまうと考えつき給水の魔法を唱える。するとウルフは私の手をくわえたまま水を飲み始めた。私はどうすることもできずに口を話すまで水を生み出し続けた。そのままウルフのお腹が水でポッコリするまで私は給水の魔法を使い続けた。魔力を使いすぎたためウルフが口を離したことを確認すると尻もちをついてしまう。その隙にウルフは私に近寄り指から出る血をなめとっていた。


唖然としてその状況を眺めてしまっていたペルリタさんは突如我に返り、私に駆け寄ってくる。


「アリシア。大丈夫?怪我を見せなさい」


ペルリタさんはウルフの存在を忘れているのか、私の手を見て給水の魔法を使い傷口を洗っていく。今は薬がないため早く家に帰ろうとして私を立ち上がらせる。私は魔力切れのため走ることができず少し速足で歩いていると、後ろからトコトコと小さいウルフがついてきていた。


「街門に着くまでには諦めてくれるでしょう」


ペルリタさんはそう言って私の手をつないで歩いていく。ちなみに桶もペルリタさんに取られてしまった。そして帰りも一時間程かけて街門までたどり着くと先程のウルフはここまでついてきてしまっていた。私がしゃがみ込むとウルフは駆け寄ってきて手をペロペロと舐め始める。その様子を見てペルリタさんは話す。


「アリシアがその子を従魔にすることができたら連れて帰ってもいいわ。だけどできるまで街の中に入れることはできません」


「従魔ってどうすればいいのですか?」


「その子に魔力を流してみて。身体のどこかに魔力印が浮かび上がれば従魔となった証拠よ」


私はウルフの頭に手を乗せ魔力を流し始める。するとすぐに手の甲に印が浮かびあがった。


「普通だと数時間はかかる作業のはずなのだけれど・・・」


ペルリタさんは完全に呆れていた。私はせっかく従魔にできたのだから名前を考えていた。まずは雄か雌かを判断するために抱っこする。すると男の子の象徴がばっちりとついていた。


「この子の名前はウルフェンにするわ。あなたの名前はウルフェンよ」


「ワン」


タイミングよくウルフェンが吠えたので、人間の言葉を理解しているのかと思いもう一度呼ぶ。


「ウルフェン」


「ワン」


その光景をペルリタさんや街門の警備の人が微笑ましそうに眺めていた。私は急に恥ずかしくなったがウルフェンが頬ずりしてくるのが愛らしくどうでもよくなってしまった。


「従魔は冒険者ギルドに登録を申し出る必要があります。警備員を同行させますか?」


「はい。念のためお願いします」


私とウルフェンはペルリタさんと警備の人に連れられ冒険者ギルドに向かうことになった。従魔と言うのは珍しい存在なのか周りの視線がすごい。ウルフェンはその視線に耐え切れなくなったのか私の腕の中で丸くなってしまった。こうして歩くこと三十分、私たちは冒険者ギルドにたどり着いた。

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