第4話
私は先程の治療で気になったことをペルリタさんに質問してみることにした。
「ここには先程のアロエを軟膏にすることはしないのですか?」
するとペルリタさんは困った顔をしてこう答える。
「軟膏って何かしら?」
「簡単に言うと薬草をすりつぶして、油などを混ぜて傷口から薬が落ちないようにする方法です」
「まあ。それは画期的ね。今すぐ商業ギルドに登録しに行きましょう」
どうやらこの世界には軟膏すら存在しなかったらしい。興奮しているペルリタさんに私はこう質問する。
「商業ギルドってそんな簡単に相手をしてくれる場所なのでしょうか?少なくとも試作品が必要だと思うのですけれど?」
私がそう言うと、ペルリタさんは落ち着いたようで。
「そうね。私ったら年甲斐もなく興奮してしまったわ。それで、その軟膏づくりは任せてしまってもいいのかしら?」
「作るのは任せてもらっても問題ないのですが、素材を集めるのを協力していただけませんか?私お金も伝手もないので・・・」
「そうよね。お金はあまりないけれど伝手ならあるわ。それで何が必要なのかしら?」
「蜜蝋があれば作りやすいです。この辺りではちみつは取れますか?」
「採れるけれど量はそんなにないわよ。それにとても高いわ。それと蜜蝋って何かしら?」
「はちみつを採った後の搾りかすみたいなものです。使い道がないのであれば安く譲ってもらえないかと思いまして」
「それならいけるかもしれないわね。早速出かけましょう」
そう言うとペルリタさんは私の手を取り、外へ出ていく。一時間程外壁の外を歩いていると一軒の小屋が見えてきた。ペルリタさんは遠慮なくドアを開けた。
「エグバード。ちょっとお願いがあるのだけれど出できてくれないかしら」
「ちょっと待ってろ」
そう言って十分ほど待つと小太りのお爺さんが小屋から顔を出した。
「何だ、ペルリタの婆さんか。はちみつなら売り切れだぞ」
ペルリタさんが話そうとするのを制して、私が説明を行う。
「初めまして、エグバードさん。私はアリシアと言います。今回お邪魔させていただいたのは、はちみつではなく蜜蝋が欲しかったためなのですが、在庫はありませんか?」
エグバードさんは私が挨拶したことに驚いて少し間が空いたが返事をしてくれた。
「・・・初めまして、お嬢ちゃん。で蜜蝋ってなんだ?」
私はずっこけそうになったが何とかこらえ、説明を始める。
「ハチの巣から蜜を取り出した後に残っている物が蜜蝋です。それがないかを確認したくてここまで来ました」
「ああ、あれか。それならあるぞ。巣一個分を銅貨十枚で売ってやる。本来ならくれてやってもいいんだがこれは商売の話だろう?」
私はペルリタさんを見る。すると顔を見合わせたペルリタさんが懐から銅貨十枚を取り出してエグバードさんに手渡した。
「確かに受け取った。それじゃ持ってくるからちと待っていてくれ」
次は二分程待つと戻ってきて手には木の桶を持っていた。中には蜜蝋がたくさん入っている。
「お嬢ちゃん。これでいいか?」
「はい。問題ありません。それでこれを薬の原料にするのですけれど定期的に卸して貰うことはできませんか?」
「そいつは難しいな。一時であれば在庫があるから持つと思うが、そんなに量が取れる物でもないからな。そちらの使用量にもよると思うがおそらく足りないだろう」
「ここ以外に養蜂をしている方はいないのですか?」
「今は俺だけだ。運よく女王蜂をテイムできたから続けているが蜂に刺される危険な仕事だからな。弟子になるような人間もいねぇよ」
「分かりました。在庫があるうちはよろしくお願いします」
「分かった。だが嬢ちゃんが来るのは今日で最後だ。この辺りは比較的安全とは言え魔物が出る恐れがある。今後はペルリタの婆さんが来るようにすることが条件だ」
「分かりました」
私がそう言うと、用は済んだと言わんばかりにドアが閉められた。とりあえず蜜蝋を確保できたが今後の課題も残ってしまったのであった。
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