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せっかくなら名前も知らない店に行って特別感を味わいたいと思い、東京の店を選んだ。
私は生まれも育ちも山口県だ。本州の最西端に位置する海街を離れ東京に赴くには新幹線代が嵩むが、これで最期だからと自嘲的に思うと寛容になれた。
新幹線に揺られて5時間。
降り立った東京駅は、普段と比べたら有り得ない数の人で犇めき合っていた。
埼玉や神奈川、千葉になら若い頃出張で行くことがあったが、考えてみればこれが人生初の東京だ。日中の一番明るい時間を移動に費やしたせいか人や空にはセピアのフィルターがかかっているようで、その景色は私にひどくペーソスを感じさせた。
一先ず予約しておいたレストランへ向かう。
受付で名前を伝えると、ウェイターが席まで私を案内してくれる。階段を経由し連れてこられたのは、椅子が窓に向かっており外の夜景が一望できる2人掛けの席だった。
席に着きほどなくすると前菜が運ばれてきて、大体食べ終えたかなという頃に次の料理が運ばれてくる。それはこれ以上ないくらい快適な時間だった。
前菜、ポタージュと食べ終えるとついにメインディッシュであるハンバーグが出てくる。
鉄板の上、アルミホイルで包まれたハンバーグだった。ナイフとフォークを使ってアルミを破くと、中からたっぷりのデミグラスソースがかかったハンバーグが顔を覗かせる。
ごくりと唾を飲み込み、一口食べる。
「………!!」
身体中に、美味さという名の衝撃が走った。
あまりの美味しさに、私はしばらく茫然として、二口目に手を伸ばすことができなかった。
ふわっとしていて、それでいてジューシーなハンバーグ。見ただけでは気付かなかったがデミグラスソースには牛すじが入っていて、ほろほろの食感とソースのコクが見事にマッチしていて絶品だった。
あぁ、あぁ。
この世には、こんなに美味いものがあったのか。
私は全てを忘れ、夢中で残りのハンバーグに食らいついた。
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