3

ふと、思った。


どうせ死ぬなら、最後にハンバーグの味を知って死にたい。


私はハンバーグを食べたことがなかった。


肉料理を食べられないほど、ひもじい生活を強いられていたわけではない。母がミンチの感触を好まなかったのだ。


あのグチャグチャした脳味噌のような肉の塊を手で捏ね、後に口にするなんて信じられないというのが母親の言い分だった。


嫌だと思ったことはない。だがそんな母の言葉を聞いて育ったせいか、ハンバーガーやつくねなどを食べる機会も滅多となかった。


高校の時。


一緒に弁当を食べていた級友の弁当に、小さなハンバーグが入っていた。よほど興味深かったのか私は、自分で気がつかないうちにハンバーグをじっと見つめていたようで、級友に

「食いたいのか?これ」

と言われる始末だった。


しかし既に母の言葉に影響されていた私は、

「いや……いい」

と青ざめながら首を横に振ったのだった。


そうして私は、ハンバーグを食べないままここまで生きてきた。


母が頑なに口にしなかった料理。衰えた母の姿を思い出すのが辛くて、何時しか母との思い出もろとも忘れていた。


母の言葉に影響されてしまったのが悔しくて、いつか口にして、「美味しいよ」と得意満面で言ってやろう。そして自分が、母にハンバーグを振る舞ってやろう。


かつて胸に秘めていた夢を思い出す。


私は美味いハンバーグの店を調べるために立ち上がった。

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