第12話
「私ね、その施設に居た頃からずっと嫌な夢を見ているの。」
ココさんがため息をついた。
「約束の日の夢。来年3000年はその日がくる年と言われているわよね。私の夢はその年に大災害が起こる夢なの。かなり具体的でどうしてもただの夢とは思えない。その夢では多くの人が亡くなる、と言うか人がいなくなるの。」
私は怖くなって尋ねた。
「St2も?」
「ええ。このままだと、どのStにいても無駄。怖がらせてごめんなさい、カナンさん。でも私の予知夢はかなり正確で、今まで数々のものが本当になってきた。だからSt3の私たちはその日に備えて、被害を最小限にするため準備をしているの。」
ククが話し出す。
「カナンごめんね。でもこれはただのおねえちゃんの夢なの。ああ、ただの夢だったねって3000年を終えることができたら笑い話になる。でもそうじゃなかった場合を考えて、St1で何か情報があればSt3の人間として、知っておきたいの。特にヤマグチが残したとされる予言書に何か書かれていないか知りたいと思っている。でも今の私たちはセンターに近寄ることもできないし、姉がリーダーだった時も、少しの間センター室に通っていただけのことだったわ。カナンもSt2の人間としても約束の日のことを知っておきたいよね。」
そんなこと急に言われてもわからない。そもそもそんな能力なんてにわかには信じられない。でもククの表情は真剣だ。いつも私にはニコニコしているから、なおのことこの話を信じないと一蹴することもできない。この姉妹が私をからかう?だます?いったい何のために?私は尋ねた。
「・・・でもその情報を探る役?が、他の人じゃなくてどうして私なの?」
そんな重い責任を持ちたくないのが本音だ。ココさんが答える。
「St1の肖像画家が年老いて、まだ先だけど引退を予定しているの。知っているわよね、ヤマさんを。あの人はセンターの人達の家族の肖像画を描いているの。でも後継ぎがいない。それで絵の才能でカナンさんが後継者に選ばれた。3,000年を前にしてSt2からSt1に移動できた唯一の女の子、それがカナンさんなの。」
肖像画を描くってそんな作業聞いたことがない。絵は今やぜいたく品だから、アーカイブで見るだけか、端末にある簡素なプログラムで描くかどちらかのはずだ。ヤマさんが言っていた全体への奉仕って、センターの家族の絵を描くことなの?じゃあクオクはそのうちの一人なのだろうか。またクオクのことを考えてしまう。私は気持ちを切り替えてココさんに尋ねた。
「でもどうやって私の絵のことをセンターは知ったの?学校の授業で絵を描くなんてことなかったし。」
ククが代わりに答える。
「カナンは金の鯉について前に言っていたことがあったよね。知らないふりをしてごめん。あいつはロボットでセンターの目なの。たぶんそいつがカナンの絵を盗み見ていたと思うし、誰がどんな才能を持っているかということに関しては、センターはかなり“目敏い”のよ。それとね、カナンの性格を見極めるためにも、彼らは金の鯉を使って試していたと思う。海に池の魚がいる異常を、彼らに報告するような女の子には彼らはリーダーを任せたくない。そしてカナンは見事報告しなかった。・・・実はね、カナンに次期リーダーになってもらいたくて、St3のみんながカナンのランドリーにメモを忍び込ませたらしいの。」
あの「きんのこいはみのがして」だ。でも驚いたのはククが言う“みんな“という協力者がいるってことだ。この災害がおこるかもしれないという予知夢は、この姉妹だけが信じているわけではなく、他にも信じている人がいるのだ。私はだんだんおそろしくなってきた。私は言った。
「センターに異常を報告するような女の子には、リーダーを任せられないってどういうこと?」
私はククに尋ねた。ククは姉をちらりと見る。ココが代わって答えた。
「センターが求めているのはお人形さんなのよ、カナンさん。」
ココさんが無表情で答えた。
子どもが自宅に帰る時間を知らせる曲が流れだした。彼女たちの家の近くにスピーカーが設置されているのだろうか。私の家で聞く音よりかなり大きく聞こえる。あまり遅れると受付で理由を尋ねられて、めんどうなことになる。私はうまく彼女たちの話を消化できないまま帰らなければならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます