千羽美幸サイド 姉には負けられない

私は姉に劣っている.....その。

負けている。

何が負けているかと言えば簡単だ。


まさに美貌もそうだが。

IQも、運動能力も、成績も。

全部負けている。


姉のIQは私よりも遥か上。

180を超える。

運動能力も天下一品。

全ての運動が出来るのだ。

そして成績はずっと全ての学年で1位だ。


それは別に羨んだりしてはいない。

そもそも私は普通を望んでいるから、だ。

だから姉がどう思っていようが私の知った事ではない。

そう思っているが。


でもその悔しい。

何が.....悔しいのか。

それは山菱達也を取られそうだから、だ。

私はずっと見ていた。

姉妹で告白した時も.....ずっと。


私達は約束を交わした。

その約束の証として私達は金で作られたロケットペンダントの様な鍵穴のあるネックレスをそれぞれが一つ持っている。

そしてその鍵を山菱達也が持っている。


だが以前に山菱達也は、鍵が劣化して折れてしまった、と話していた。

つまりそれは鍵穴が永遠に開かない事を示している。

もし開いたなら。

私達はどちらかが結婚する、としている。


今となってはこの約束も散り散り。

つまり泡の様な感じだ。

だから私はホッとしている。

逆に決めてもらっては困るので、だ。


だがその不安を上塗りするかの様なかなりの不安が出てきた。

思いながら私は姉を見る。

姉は和かな態度になっている。


これはどういう事なのか。

以前のまるでクールな感じは何処に消えたのだろうか。

私は不安を感じながらも笑みを浮かべる。


「美幸」


「.....はい。お姉様」


「有難うね。達也を呼んでくれて」


「達也さんは元から呼ぶつもりでしたので」


「.....そうなの?」


「はい。お姉様の事が好きなので達也さんは」


すると山菱達也は私を見てくる。

それから、それは無いよ、と言ってきた。

そして頭を撫でてくる。

お前の事も美里も好きだ、と言ってくれる。

私は赤くなりながら山菱達也を見た。


やはり私は山菱達也が好きだ。

世界で一番この人しか居ないと思っている。

私にふさわしい人は、だ。

思いながら私は笑みを浮かべる山菱達也を見る。

そして話した。


「.....達也さんは色気を色々な人に使うのをやめた方が良いと思います」


「え?あ、そ、そうだな」


「.....」


また言ってしまった。

何故私は素直になれないのだろうか。

全然こんな性格じゃ無かった。

昔は全然素直だったのだ。

私は馬鹿だな、と思う。


「それで美幸。美里は.....その。退院出来るのか?近日中に」


「.....はい。その通りです」


「早く退院したいもんだね」


「.....そうだな。美里」


2人の幸せそうな感じを見る度に。

私の心は焦りを感じていた。

何故こんなに急接近しているのだろうか、と。

思いながら私は様子を伺っていると。


「すいません。面会終了です」


「.....あ、すいません」


看護師さんがやって来て山菱達也と私はそう言われた。

それから山菱達也は私達を交互に見つめてから。

じゃあまた明日でも来る、と言いながらそのまま去って行く。

私もその重たいお尻を上げながら歩いて行こうとした。

すると姉が、ねえ。美幸、と聞いてくる。


「.....私って何処かが変わってしまったかな」


「.....と言うのは?」


「.....何だか前は覚えているけど.....その。達也に性格が変わったって言われた」


「.....」


自覚が無いのだろうか。

貴方はとても良い性格になってしまっている、と言う事が。

それに.....私は偶然に見てしまった。


何を見たかと言えば。

姉が.....山菱達也の名前を連呼しながら下着をぐしょぐしょに濡らしていたのを。

何というか小さく喘いでいた。

この人はクールが壊れ卑猥な性格になっている。

私は思いながらも笑みを浮かべてから答える。


「そんな事は無いです。お姉様」


「そうかな?.....でも確かに何だか前よりも気楽になったよ。本当に」


「.....」


私は.....この人に恐らくは勝てない。

恐らくは、だ。

勝てない。


つまりこの人が卑猥になれば山菱達也もこの人の卑猥に飲まれる可能性がある。

それは山菱達也だから。

私はグッと握り拳を作る。


「お姉様」


「ん?何?美幸」


「.....私は負けないです」


「.....負けない.....って。.....あ。成程ね」


ニヤッとするお姉様。

それから、私は今でも達也が好き、と告白してくる。

やはり、と思う。

私はそんな姉に向いた。


そして強く、私だって絶対にこの事は負けないです、と言う。

私達は山菱達也が好き。

その事を再認識する様な.....そんな感じだった。


そして私は病院の廊下を歩く。

決して負けない。

絶対に。

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