第5話(第115話) 小学生が【中二病】スキルを取得したので、飛び級してみた
【ここまでのあらすじ】
壇ノ浦校長の先導の下、物部
「ノヴォリト研究所」では、物部
姿を現さない次期領主に
久曽小学校から横島小学校に転校してきた、当時の橘少年は、壇ノ浦校長に、横島小学校の校長室にお呼び出しされ、自身の出自に関して説明を受けることになったのだが……。
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橘少年の出自に関して説明をしようと話を始めた、壇ノ浦校長の最初の問いは、
「君は、どこまで真実を知っているのかな?弓削君が、函館に転校した、本当の理由は?それと、彼が所属している、物部
という内容だった。まず、どこまで真実を知っているのか、という問いは余りにも漠然としすぎており、強いて言うならば、全く知らないと答えるより他ない。
次に、弓削少年が、函館に転校した、本当の理由についてだが、これも全く知らない。しかし、ここでそういう問いが出てくるということは、普通に親の転勤とか、そういう単純な理由ではなく、何か不穏当な、或いは、もっと物騒な理由によるものだと推測することは出来る。その内容までには心当たりはないのだが……。
そして、続いて質問された内容である、弓削少年が、所属しているという、物部
「俺の出自に関しては、何も聞いていません。弓削君が、函館に転校した理由も、普通に親の転勤とか、そういう理由だと思っていました。物部
その答えに、壇ノ浦校長は満足そうに、
「君の答えは、私が推測していた内容と、殆ど相違ないよ。
と言いながら、物部
「まずは、
「まぁ、そのぐらいの範囲であれば、何となく。」
「では、祖父母同士が兄弟の場合を
「系図マニアみたいな知識ですけど、もうそれは、殆ど他人と言ってもいい関係ですよね。」
「まぁ、そのぐらい歴史の古い一族だということだね。そして、確かに、君の言った通り、弓削氏は、物部
「俺の家の者が、物部
「私も、今は壇ノ浦と名乗っているが、出身である平間氏は、平氏の落ち武者の末裔だと言われている。この平間氏も、物部
「でも、
「ああ。
「さっきも言ったけど、8親等とか10親等とか、殆ど他人じゃないですか。」
「だが、その関係で、君の進学先の選択肢の提案をするために、ある人物を呼んでいる。」
そこで、壇ノ浦校長は、校長室の隣の部屋で待機していた人物を校長室に招き入れた。
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校長室に招き入れられた人物は、二十代後半ぐらいの年頃の青年だった。
「初めまして。私は、物部
「初めまして。総司令官というのは、軍隊か何かですか?」
「ああ。私は、異界方面の総司令官を担当している。異界とは何だ?という顔をしているな。これから話すことは、他言無用に願いたいが、仮に誰かに話しても、都市伝説扱いで一蹴されるだろうがな。」
最初は、ふざけているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。異界とは何かの隠語だろうか?
「異界というのは、異国というか、外国みたいなものかなぁ?」
「いや。全然違う。異界というものが、都市伝説ではなく、実際に存在するのだ。
「【異界渡り】?俺には、そんな特別な能力を持っていた覚えはないですよ?」
「君は、実はこの世界の出身ではない。異界の出身だ。この世界の上には、無数の『ここではないどこか別の世界』が重なっている。君の出身地である異界も、そういう世界の一つだ。」
そして、物部総司総司令官は、異界について説明を始めた。
「世界とは、各々の次元の上に存在する。別次元の領域に、ここではないどこか別の世界がある。それが異界だ。それらは、層状に重なっていて、次元断層という障壁みたいなものによって、隔てられており、通常は互いに行ったり来たりは出来ないんだ。」
「だったら、異界が存在していても、普通は気が付かないんじゃないですか?」
「だが、互いの層を隔てる次元断層という障壁には、次元の歪みが生じることがある。それはやがて、次元の裂け目となり、これが異界への入口となる。橘君も、神隠しという言葉ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかい?」
「でも、実際に誰かが失踪して行方不明になったら、捜索願が出されますよね?」
「行方不明者の周囲の人間が、本人のことを記憶していればね。誰かが次元の裂け目に吸い込まれた場合、世界観で情報の整合性を保つため、辻褄を合わせる際、失踪した人間の記憶が抹消され、情報が改変されてしまう。」
「すると、皆の記憶から忘れられてしまうから、誰も捜索願を出さない?」
「単純な転移であれば、次元の裂け目が閉じれば、そうなるね。稀に不具合として、本人やその周囲の者に、身に覚えのない記憶が残ることがあるけど。」
「自分の過去なのに、他人の記憶を辿っているみたいな?」
「そう。しかし、自我を保った上で、異界間を転移することが出来る、【異界渡り】という能力を発現する者が、稀にいるんだ。君にもその素質がある。」
突然の説明に理解が追いつかない橘少年に、壇ノ浦校長が補足説明をする。
「さっきも言ったが、総司君を呼んだのは、君の進学先の選択肢の提案をするためだ。弓削君が転校した後、君が不良少年に集団リンチされているという現状は望ましくない。君だって、彼らのサンドバックにされた状態で、このまま終わるのは厭だろう?」
「そうですね。連中は俺のことを『中二病』とか言うんですよ!」
「中二病」というのは、メディアによる造語だが、定義が非常に曖昧で、このような言葉は、
「彼らは何故、君のことを『中二病』と呼ぶのか、何か理由は言っていたかね?」
「『黒い服を着ているから』とか、『旧字体を使うから』とか、『
他にも、眼帯をしたり、意味不明な長い呪文を詠唱したり、漢字にカタカナ英語でルビを振ったりすると、「中二病」と呼ばれることがあるようだ。
中学三年生以上の学年に在籍する者が「中二病」と言われたら、実年齢よりも幼く見られるわけで、誹謗中傷されたと思うのが当然だろう。
しかし、小学生の時点で「中二病」と言われたら、実質的には、飛び級相当の実力がある、と褒められているのではないだろうか?
「黒い服を着ている人が『中二病』なら、葬式に喪服で参列した者は全員『中二病』になってしまうではないか。旧字体や
ものもらいや結膜炎で苦しんでいるときに、何故、眼帯をしているだけで、「中二病」などと揶揄されなければならない?
それに、葬式で喪服を着ている人だけでなく、意味不明な長い呪文を詠唱するのが「中二病」というのなら、参列者の殆どは、あのサンスクリット語を理解できないから、読経している僧侶も「中二病」ということになってしまうだろう。
そして、現実の中学校において、外国語教育の選択肢として、
戦前の外国語教育は、英語と
旧字体の廃止も、
昨今、「中二病」は、黒歴史だという風潮が強いようだが、同時に、「自虐史観」は良くない、という風潮も強くなっていると感じる。
だが、この「黒歴史」という言葉自体、
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橘少年の怨念の如き憤怒を理解した壇ノ浦校長は、
「飛び級制度は存在しないが、その代わりに、ここに異界の学校のパンフレットがある。実は、私もこの異界の学校の卒業生でね。こちらの世界に留学して、そのまま気が付いたら、校長にまで昇進していたんだ。その観点から言わせて貰うと、君に
「校長先生が異界の出身?平氏の落ち武者の末裔なのに?」
「壇ノ浦の戦いに敗れ、落ち武者となった私の先祖は、次元の裂け目に吸い込まれて、異界に転移して、
物部総司総司令官も、壇ノ浦校長の発言に補足説明を加える。
「もしこの選択肢を選ぶのであれば、君は物部
「もしかして、俺や壇ノ浦校長の出身である異界以外にも、行かれる機会があるんですか?」
「ああ。勿論あるよ。君が他の異界に行くことも望むのであればね。そうそう、各々の異界は、時間経過が独立しているんだ。【異界渡り】で転移するときに注意すべき点としては、例えば、十歳の君が、ある異界に行った後、別の異界で十年過ごしたとしても、最初の異界では十歳のままだ。【異界渡り】先を偏らせたり、放置したままにするのは、あまり望ましくはないな。」
「ん?でも、俺は異界の出身なんですよね。多分、物心がつく前だと思うけど、向こうに【異界渡り】したら、もしかしたら、幼児からやり直し?」
「それはない。君は【異界渡り】の能力が発現する前に、取り替え子という形でこちらに転移した。あちらの異界で君が存在した記憶は既に抹消されている。逆に言えば、【異界渡り】の能力が発現した後、最初に【異界渡り】した時点で、また、向こうでの情報が固定される
「その俺の出身地である異界の名前は?」
「安直だけど、我々の組織では、魔素が濃いから、【魔界】って呼ばれているよ。今我々がいる、この現実世界を『現世』と呼ぶことにすると、これが第一の層になる。魔素が存在しない世界だな。次に、この世界では喪われた、絶滅種や死語、廃駅が存在したりしている異界を【喪界】とか【喪世界】と呼ぶんだけど、その【喪界】のある次元の層が、その上にある。これが第二の層になる。【魔界】のある次元の層は、さらにその上の第三の層にある。その上には、【冥界】と呼ばれる異界が存在している、第四の層があるが、魔素が濃過ぎて、瘴気みたいになっていて、私を含め、殆どの者は行かれない。暗黒次元とも呼ばれている。」
「【異界渡り】の能力は、どうすれば発現するんですか?」
「【異界渡り】は、【魔界】では【術理】、【喪界】では【
こうして、橘少年は、「小学生が【中二病】スキルを取得したので、飛び級してみた」という企画の実験に、被験者として参加することになった。
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