第3話(第113話) 異界駅の傾向と対策
【ここまでのあらすじ】
物部
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壇ノ浦校長は、黒板に「異界駅の傾向と対策」と大きく題字を書いて、皆に尋ねた。
「『異界駅』とは何か、知らない者のために念の為説明しておくと、『異界駅』とは、迷信や
「『きさらぎ駅』。」
壇ノ浦校長は、黒板に「きさらぎ駅」と書いた。
「ああ。確かに『きさらぎ駅』は有名だな。では、私なりの解釈を示そう。ところで、『韮崎』駅という駅について聞いたことはあるかね?」
「山梨県にある駅ですか?」
「戦前の駅名標は、右から左に読んでいた。『韮崎』を逆から読んで見
「「「「き・さ・ら・に」」」」
「そういうことだ。戦前の『韮崎』駅に繋がった可能性も否定は出来まい。これを、アイヌ語で、耳を意味する『
その後、物部
●浅川駅
●あまがたき駅/あまがたに駅
・いずみがもり駅
●狗歯馬駅~厄身駅
●お狐さんの駅
・かがち駅
●かたす駅
・かむ…駅
●きさらぎ駅
●霧島駅
・軍事工場跡駅
○ごしょう駅
・齋驛來藤駅
・新長崎駅
・すざく駅
●すたか駅
●高九奈駅~敷草谷駅
・谷木尾上駅
・月の宮駅/つきのみや駅
・とこわ駅
○はいじま駅
○ひつか駅
・譬娜譌爬駅
●ひるが駅
●藤迫駅
・べっぴ駅
・まみた駅
・森越駅
●やみ駅
調べてみたら、何と30駅以上も存在した。
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郡山青年が、物部
すると、二人は入門祝いとして貰った、翻訳の
その行き先は、「西地神井」行きと表示されていた。この行き先表示もスロットのリールや、ドラム缶の様に廻転する方式の車両のようだ。
――横須賀線の「西大井」駅?
――東武鉄道の「西新井」駅?
――それとも、西武新宿線の「上石神井」駅?
「聞いたことがない駅名の行き先だけど、翻訳の宝珠が発光したということは……。」
「ああ。お迎えが来た、ということなのだろう。」
「確かに、あの入門前の研修の後、いつでも召喚に応じられるように身構えてはいたけどさ……。」
「別に、乗ったからって、必ずしも、
こうして、二人は、出征する兵士の様に、列車に乗り込むのであった。
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車両自体は、霊柩車みたいな悪趣味な外装の列車ではなく、普通の車両だった。但し、現在では使われていない、旧型の車両ではあるが。
電車の内装も、鉄道博物館に展示しているような、明治時代や大正時代に走っていた、木目と赤い座席の車両程、古風な車両ではないが、天井に扇風機が廻転している程度には、旧型の車両ではあった。
この電車はずっと地下を走行しており、一向に停車する気配がない。一度、「
「
「昔は、棺を埋めるための墓穴みたいな意味もあったらしいが……。」
「縁起が悪そうな名前だな。トンネル内に駅があるのは、『霧島駅』の系統か?」
「でも今回は通過だから、『万世橋駅』の遺構みたいな、廃駅の類かもな。」
すると、その静寂を破るかのように突然の車内放送が流れた。
「現在、『なんしょーるだいや』が乱れております。」
車掌の車内放送が笑わせに来たので、腹筋が限界なんだが……何とか堪えた二人は現状を分析する。
「今のって、確か、例の『はいじま駅』の話で出てくる台詞だよな?」
「『何をしているんだ』という意味の方言だと思うけど……。」
「電車の『ダイヤ』と掛け合わせたつもりなんだろうな……。」
「この車掌の、駄洒落のセンスの方が、よっぽど乱れているんじゃないのか?」
「どんな神経をしているんだろう?」
「どんな面をしているのか、拝みに行こうぜ。」
異界駅には、電車が駅に止まらないとか、車内で全員が寝ていたりするという異常事態に遭遇した際、乗務員である、車掌に助けを求めに行く場合がある。その場合の展開として、
・「あまがたき駅/あまがたに駅」みたいに、おしろいを塗った時みたいな白い肌の車掌が直立不動。
・「きさらぎ駅」みたいに、車掌室の窓のブラインドが閉まっている。
・「べっぴ駅」みたいに、顔中アザだらけの車掌。
等々の
「チッ、車掌室は無人かよ。」
「最近流行りの運転手のみのワンマン運転ってやつか。」
「ケチって人件費削減してんじゃねぇよ。」
等と悪態をつきながら、反対側の運転席まで行ったが、やはり誰もいない。
「じゃあ、一体誰が運転しているんだよ?」
「最近流行りの人工知能による自動運転か?」
「運転は仮にそうだとしても、それじゃあさっきの車内放送の主は一体誰なんだ?」
雑談しながらも冷静に分析することで、逆に二人の背中に何か冷たいものが走った気がした。
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二人は危惧した。このまま、この電車に乗っていて、「ごしょう駅」や「やみ駅」みたいな駅に到着したら、
「こういう時って、何かを燃やせばいいって話があったよな。」
「『すざく駅』の大学生が実行した方法か。」
「百円均一のライターと……ポケットティッシュでいいか。」
「いや待て。トンネルの中で引火性の気体が漂っているかも知れない。」
「
「火災報知器?国鉄時代の車両にそんなものあるのか?」
「何か列車火災事故があったから、消火設備は設置したとか、聞いたような気がするけど……。」
この時、「何谷戸駅」という名前の、廃駅なのか、それとも通過駅なのか分からない駅を通過した。
「この駅名は、
「きっと、関西弁の『何やと?』と、『谷戸』という地名とを掛け合わせたつもりなのだろうが……ナンセンスだよ。」
「俺達の会話に反応したということは、火気厳禁という、意思表示のつもりか?」
「途中駅の駅名で、意思表示してくるのは、『狗歯馬駅』~『厄身駅』の
その話では、その後の駅名が、「なんでおりるれか」、「なんで」、「まどからおりろ」、「おりろ」、「おりろ」、「おりろ」 となる。普通に考えたら、同名の駅が3つ連続する路線は、有り得ないだろう。
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幽霊車掌の駄洒落によって、脱力した二人は、雑談でもして、時間を潰すことに決めた。
「ところで、『谷戸』という地名は、『
「確かに。でも、アイヌ語といえば、『かむ…駅』という異界駅の正体は、廃駅の『
「『森越駅』みたいに過去の駅に行ったというのか?『高九奈駅』~『敷草谷駅』の場合も、前者は高句麗語っぽいが、後者は、『
「『ギョウジャニンニク』の意味だっけ?『ニリンソウ』という意味の『
「『ニリンソウ』は、地方によっては『
それは、彼らとはまた別の世界線の話であるが、異界駅や言語学の動画が流行った年がある。両者を無理矢理結びつけて小説にしようと天啓を得た者もいるとか、いないとか。
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二人が乗った列車は、まだ停車駅に到着しないので、異界駅や言語学の持ちネタが尽きた二人は、専門の物理学、特に、量子力学へと話題を変えていた。
弓削青年は、函館に
「『トンネル効果』の透過率の式には、『双曲線正弦関数』が現れるよな?」
「ああ。『虚時間・虚数時間』の『単振動・調和振動』を微分方程式で表現しているからね。」
「『相対論的量子力学』の場合、『シュレーディンガー方程式』とは限らないよな?」
「『相対論的量子力学』の場合は、『ディラック方程式』で表現することになるだろうね。」
「『クライン・ゴルドン方程式』は、あくまで過渡的なものだったのか?」
「『ボース粒子』は『クライン・ゴルドン方程式』でも表現できるらしいが、『フェルミ粒子』は、『ディラック方程式』で表現するしかないね。」
「『ディラック方程式』は、『ディラック行列』、『ガンマ行列』が複雑だからなぁ……。」
「『ディラック行列』も『ガンマ行列』も、量子情報で登場した、『パウリ行列』の『直積』で表現できるぞ。」
「『直積』は『テンソル積』のことだったよな?」
「行列に限っては、『クロネッカー積』とも呼ぶね。」
今度は逆に、郡山青年が弓削青年に質問する。
「君は、
「流体力学だよ。内容としては、物理学科では扱わないような、工学的な応用の側面を扱っていたよ。」
「流体力学の場合は、ナビエ・ストークス方程式を解くのだろう?」
「単に、ナビエ・ストークス方程式を解くだけじゃなくて、マッハ数やレイノルズ数で分類したりする。」
「圧縮性とか、乱流とか、だね。」
「ああ。新幹線の先頭が『カモノハシ』形状をしているのは、騒音対策のためだとか、ゴルフボールの表面に付いている『ディンプル』という小さな凹凸は、空気抵抗を減らして飛距離を稼ぐためだとか、『鮫肌水着』も表面に鮫肌の様に微小な凸凹があり、水と水着の間の摩擦抗力を減らすことが出来るのだが、どちらも乱流境界層の性質を利用しているんだ。」
そのような面白い話題が尽きる前に、列車は停車駅に到着したのであった。
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その停車駅は、車止めがあり、どうやら終着駅のようであった。水色のフェンスに囲まれている点は、「狗歯馬駅」の特徴に酷似している。
駅名標は、恐らく、「西地神井」駅と書かれているのだろうが、「齋驛來藤駅」や「譬娜譌爬駅」の様な、旧字体や中国語の漢字というわけでもなく、梵字・
駅を囲んでいる水色のフェンスのすぐ外側には、石油化学コンビナートだったと
駅のベンチには、「月の宮駅/つきのみや駅」の話に登場したような、2メートルぐらいの黒い人が何人か座っていた。
彼らは、二人の青年にとっても見覚えのある、「般若の仮面」、「妖狐の仮面」、ペスト医師みたいな「烏天狗の仮面」を被り、優雅に、水筒からお茶を出して飲んでいた。それは、百鬼夜行か、或いは、
やがて、彼らはこちらに気が付くと、太鼓を取り出し、小学校の音楽室にあるような、鈴を手に持ち、笛と太鼓を持って、「トットコトットコトットコトットコピィピィピィピィ」と鳴らす、子熊の人形の様に、演奏を始めるのであった。
きっと、これが、「きさらぎ駅」やら、「まみた駅」やらで、聞こえてきた、鈴と太鼓の正体ではないだろうか?
今日は、異界駅の
『私だ。壇ノ浦だ。今、翻訳の
以下、二重鉤括弧の台詞は、【思念共有】による会話によるものである。
『ああ。地元民と言葉を交わしたら、この異界に縫い止められて、固定されてしまうんでしたっけ。』
『いや。【異界渡り】の能力が発現している、我々の存在を縫い止めて固定することは不可能だ。【異界渡り】の能力は、それらの拘束や束縛を断ち切って転移することが出来るが、あくまで念の為だ。』
『この異界駅の地元民達は、我々を歓迎してくれているみたいですねぇ。』
『彼らは、地元民ではなく、私の式神だよ。君達が到着したら、音を立てて、私に報告するように、
虚無僧は、尺八の様な笛を吹き、二人と自分の式神の音楽隊を含めた、一行を先導する。水色のフェンスで囲まれた駅の敷地を出て、廃墟となっているコンビナートを左に曲がると……。
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