第166話

『しぬほど最高だった』



 っていうコウさんの台詞をボクは思い出していた。



 何も着ていないベッドで、政さんとふたりの賢者タイムに。



 ………っていうか、賢者通り越して仙人とか?神さまとか?言っていて自分でも意味が分からないけど、とにかくボクは賢者タイム通り越してちょっと放心状態。



 ………何だったんだろう。何ていうか………すごい濃密な時間だった。行為だった。交わりだった。



 相手が政さんに限らず、こういう行為って人が人とやる行為の中で、一番濃密な行為だと思う。思っている。

 自分の一部分を人の一部分に挿入するんだから、それは相当濃密でしょ。



 ただ………。



 身体が動かない。動かしたくない。

 政さんとの初めてのこの1回は、政さん以外の人との何回分?ってぐらいの濃密さだった気がする。



 コウさんが言っていた『しぬほど最高だった』を、身をもって知った気がする。



 ボクの全身が今、政さんでいっぱいだ。政さんの………愛情で。



 電気をつけて正解だったと思う。明るくして良かった。

 政さんに貫かれた下から、政さんの目が表情がよく見えた。



 政さんは本当にずっとボクを見ていた。ボクの全身の、すみずみまで。

 見て、さらに興奮して欲情する表情なんて、見たいに決まっている。



「大丈夫か?」



 あまりにもぐったりで、ボクはどうやら少しうとうとしていたらしい。

 耳元で聞こえたバリトンイケボに、はっと目が覚めた。



 この声にどれだけ呼ばれただろう。

 この声にどれだけ求められただろう。



 想像していたよりずっと、のこの声はヤバかった。



「………政さんのどこが淡白なの?」

「それは自分でも驚いている。10代のときだってこんなじゃなかったのだが」



 そう、政さんは自分で淡白だと言っていた。

 自分から誘ったことがなく、歴代の彼女さんたちに誘いに誘われてやっと………だったと。

 でも、やっとホテルに行ってもなかなか身体がその気にならなかった。頑張ってその気にさせても途中で萎えた。ずっとそんな風だったと。



 ………それを聞いたのは、散々声を上げさせられている真っ最中だった。



 絶対ウソって、政さんにしがみつきながら言った。

 絶対ウソだよ。じゃあコレは何なのって。



「キミは俺の特別なんだ」

「………しかもこれで初めてって何」



 思わずボヤいたボクに、政さんが笑った。



 素肌の腕に、抱き寄せられる。

 政さんのダイレクトな体温に、余韻が凄すぎる身体が歓喜の声を上げる。



「キミには怒られたが、予習の賜物だ」



 良かったか?って聞かれて、正直に答えた。最高に良かったですって。



 ボクが怒った予習の賜物ってことは、バーに居たイケオジからのレクチャーだ。

 一体何を、どんな風に聞いたのか。



「じつは動画も山ほど観てな」

「………え?」

「もちろん男同士のやつだ。人に教えを乞うて、映像で何度も観て………気分はチェリーBOYだったよ」

「政さん………ゲイビなんか観てたんですか?」

「観たとも。山ほどな。………ただ、どんなに観てもはぴくりとも反応しなかったが」

「ぴくりともって」

「ぴくりともだ。これっぽっちも。なのに」



 なのに。



 意味ありげに言うと、政さんはもぞっと動いてボクに。



「………っ」

「どうしてか、キミとこうしているだけで元気よく

「もうできませんよ⁉︎」



 ぐいっと熱い腰を押し付けられ、ボクは焦った。



 どれだけと思ってるの。

 回数としては確かに1回ではあったけど、時間が。

 かける時間がとにかく長かった。スタートからゴールまで、ボクはずっと、休む間もなく声を上げ続けてたっていうのに。



「何⁉︎」

「いやいやいや、何⁉︎じゃなくて」

「俺はこんなにもやる気だが⁉︎」

「そんなにやったら明日立てなくなりますよ⁉︎」

「確かにすでに腰にきているが‼︎だがしかしが‼︎がキミには入りたいと涙を‼︎………いや、ヨダレか?流しているのだ‼︎」

「ちょっ………ヨダレって」



 生々しいなあって、必死な政さんに思わず笑った。

 政さんも笑って。一緒に笑って。



「………激しいのは、無理ですよ?」

「大丈夫。それは俺も無理だ」



 明日は絶対、ふたりで生まれたての子鹿だよね。



 近づく政さんの唇に、ボクは目を閉じながら思った。

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