第165話

「………っ」



 次の瞬間、ボクはベッドに沈められていた。



 天と地が一瞬分からなくなって、反射的に目を閉じたら身体がベッドの上でバウンドした。

 そのまますぐに政さんに乗り上げられて、目を開けたら。



 そこには、欲に濡れ、揺れる、オス色の目。



 目が合ったのが合図だった。

 ボクの唇は政さんの唇によって貪られた。



「政さん………政さんっ………‼︎」



 貪りの合間に政さんを呼ぶ。でもキスは止まらない。止めてくれない。

 ファスナーは全開。はだけたパーカーから政さんの少しかたい手が滑り込んでいる。

 その手の、指の動きに合わせて身体が跳ねる。



 同性相手は初めてのはずなのに、ここまで躊躇いがないなんて。



 ボクは政さんにしがみつきながら、貪りの合間に政さんを呼んだ。



「いくら何でも、ここまで来てやめることはできないが?」



 貪りの合間に政さんが答える。

 そしてまたすぐに貪り。



 くらくらする。全身が疼く。

 今までボクがしてきたキスは一体何だったのか。もうコレだけで………。



「ちがっ………そうじゃなくてっ………」

「そうじゃなくて?」

「電気をっ………」

「電気?悪いがこれ以上暗くは………」

「………つけて‼︎」



 途切れ途切れに、やっとボクは言いたいことが言えた。

 たったこれだけを言うのにかかった時間。奪われた体力、そして奪われた理性がすごい。



「………つっ…つけて⁉︎」

「つけて………下さい」



 呼吸が乱れる。すでに焦点もどこか合わない。視界も頭もぼーっとする。

 なんとか自分が言っていることは理解しつつも、早く行為の続きを。考えるのはそのひとつ。



「キっ…キミはっ………」



 政さんがボクのすぐ上でまた、ごふっと口元を覆った。



 そんなことはしなくて、してなくていいから早く。早く電気をつけて。明るいところでボクを見て。今から政さんに晒される、ボクのを。



「つけて、早く。そして早く脱がせて、ボクを見て下さい。見たいんでしょう?見せてあげます。政さんに全部。だから………」

「………くっ」



 口元を覆う手を退けて、懇願。



 早く。

 早く早く早く早く。



 気持ちと同調して早口になる。身体がこの先を強請って動いている。政さんと重なる腰が。動く。蠢く。勝手に。



「政さん、早くっ………」

「………鼻血どころか吐血ものだな」

「ねぇっ………」



 ピッ………



 ボクの悲鳴みたいになった声と電子音が同時で、ランタンのあかりだけで少し暗かった部屋が一瞬でパッと明るくなった。



 はだけているパーカー。

 ボクに馬乗り状態で、ボクを見下ろしている政さん。



「………やはり、芸術の域だな」



 濡れる、揺れる、オス色の目に奪われる目で、心で、気持ちで………身体。



 熱い息が、ああって声が、自然と漏れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る