第167話

 二度目の行為を終えて少し休憩をしてから順番にシャワーを浴びて、ボクたちは寝た。

 さすがに疲れたのか………うん、疲れたよね。ボクも疲れた。それは心地良い疲れだけど。政さんの寝息はすぐに聞こえ始めて、その呼吸音にボクもすぐ眠りに落ちた。



 目が覚めたのは、猛烈な喉のかわきで。痛いぐらいかわいて。



 部屋はまだ暗く、ヘッドボードのスマホを見たら、まだ朝の6時前だった。



 ボクはボクに腕を絡めて眠っている政さんから何とか脱出してそっとベッドを抜け出した。



 寒い。



 政さんの体温と布団でかいた汗が、ベッドを出たことで一気に冷える。



 久しぶりの行為でまさかの2回戦。

 ヨロヨロしつつも、なるべく音を立てないよう、ボクはスマホのあかりを頼りに寝室を出た。



 流しの電気をつけて、電気ポットにお水を入れてスイッチを入れる。

 さらっとあっためて、それを飲んだらもう少し寝よう。



 うちにはないけど、電気ポットって便利だなあなんて。

 さらっとあたためるだけのつもりが、トイレに行っている間にあっという間に沸いたお湯。

 ボクはマグカップに半分ほどお湯を注いで、そこにお水を足して一気に飲み干した。



 カラカラにかわいていた喉が潤う。



 身体がだるくて立っているのもつらくなって来て、ボクは電気ポットとマグカップを持って椅子に座った。



 そして、マグカップにさらにお湯を注ぎながら思う。

 身体のだるさに、本当にしちゃったんだな。政さんと。ずっと女性としか付き合って来なかった政さんと。



 マグカップからゆらゆらのぼる湯気を見ながら、ボクはマグカップを持っていない方の手で、自分の身体をぎゅっと抱いた。



 ………初めて抱かれた。好きな人に。



 何て幸せな時間だったろう。想像以上だった。

 幸せで幸せで、とてつもなく最高に幸せな時間だった。

 だから思う。こんな日を失ういつかがこわいと。

 ずっとあったその恐怖心は、政さんに抱かれる前よりも確実に大きくなった。



 でも。



 この幸せを知ってしまった以上、政さんが居ない毎日なんて考えられない。

 政さんという存在が、存在だけでボクに幸せをくれるんだ。



 ならボクは、いつか来るいつかのために、何一つ後悔しないよう、政さんを大切にしよう。政さんに笑顔を。政さんに幸せを、愛を。



「実?どうした?」



 湯気の揺らぎに合わせて身体をゆらゆらさせながら、ぼんやりとそんなことを考えていたら、寝室のドアが開いて政さんの心配げな声が聞こえた。



「暖房もつけずにいたら寒いだろう。どうした?眠れないか?」



 政さんは慌てたように暖房のスイッチを入れて、ソファーの上に置いてあったボクのカーディガンを持って来てくれた。



「喉がかわいただけですよ。政さんは?どうしたんですか?」

「俺は………多分、キミがベッドからいなくなって目が覚めた」



 ふわり。



 肩にカーディガンをかけられて、そのまま抱き寄せられる。



 ああ。



 身体が歓喜の声を上げる。心が満ちる。

 この人に抱かれたんだ。ボクは。この人と愛し合った。愛し合っている。



 ボクも政さんの腰に腕を回した。



「冷えている。キミが風邪をひいたら、俺は泣くぞ?」

「え?泣くの?」

「泣く。俺は365日、毎日いつでもキミに元気で笑っていてもらいたい」



 365日、毎日、いつでも。



 いつになく真剣な声なのは、ボクが政さんにとって、大切な存在だから。

 政さんもまた、愛する存在を喪うことがどれほどのことかを知っているから。



「政さん」

「ん?何だ?」

「ボクはアナタが………大好きです」



 愛しさがきゅうううううっと込み上げて来て、ボクは込み上げて来た気持ちをそのまま、政さんに伝えた。



 政さんはふっと吐息で笑って、俺もだって言ってくれた。

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