第28話
ずっと来たいと思っていたお店。ギャラリー暁は、一言で言えば最高だった。
お店の雰囲気も店員さんも最高だった。
特にボクお気に入りの器たちを作ってる多田さんは、予想通り最高過ぎる人だった。
多田さんが作る器は、置くとごとんという音がする重厚なものがほとんどで、色はあたたかみのあるアースカラー。
お茶碗、湯呑み、マグカップにスープマグ、特大大中小特小の丸皿から同じく楕円、スクエア型のお皿や深皿、カレー皿などなどなど、種類は結構豊富にある。
ごつさと繊細さを併せ持つ多田さんの器のファンは、多分結構、かなり居ると思う。
ボクが知ったのは、おばあちゃんに習って料理を始めてから。
何か簡単で美味しく作れるご飯ないかなってレシピを調べたときに、たまたま。
運命の出会いといえば、それは運命の出会い。
ボクは一目でその器の虜になった。
あまり大きな声で言えないバイトをしてたから、本当はすぐにある程度買い揃えることができたんだけど、小さめの湯呑みひとつでもそこそこの値段がする
たくさんの多田器を前に、ボクのテンションはマックスだった。
ショップ限定器も目の前。テンションが上がらないわけがない。
しかもそこに多田さん本人が来てくれて、流れからボクが毎月ひとつずつ多田器を買っていたって話になって、もしかして山田さん?って聞かれて、倒れそうになった。
好きな作家さんに認識されてるって何。
多田さんは、意外なことにボクより背が小さかった。
でも、格闘技をやっているだけあってボクよりかなり厚みのある身体で、襟足の長い黒髪にタオルを巻き、無精髭を生やしていた。
お店の人からクマって言われてるのが、納得の人だった。
ボクは多田器の前で悩んだ。
すぐに離乳食が始まるめぐとつむのお皿が欲しい。
でも、家族全員のお皿も欲しい。家族全員のっていうか、辰さん、政さん、宗くんのやつ。ボクたちと同じやつ。
ボクが新しい家に一緒に住むことはないけど、一緒にご飯を食べることはきっとこれからもあるから。
多田器の前でうんうん唸っていたら、陶芸体験の時間になって、とりあえずどれを買うかは後回しに。
お店のすぐ横にある工房に通されて、ボクはそこで多田さんにまさかの映画のワンシーンの再現をしてもらえた。
座ってろくろを回すボクの後ろに多田さんが座って、ボクの手に手を添えて………ってやつ。
ボクはひたすら爆笑して、隣でやっていた政さんは微妙な顔でこっちを見ていた。
ボクたち以外にも人がいたから目立っちゃったけど、とにかく楽しかった。
………そんな風にしてないとさ。
政さんがこっちを見てる。ボクを見てる。
ボクの全部が、政さんって言ってるみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます