第23話

 嵌められた。



 行ってらっしゃいって見送られて、もはや行くしかなくて、明くんのばかって気持ちで明くんを見たら、明くんは『ごめんね、実くん』っていつもの3割増しぐらい庇護欲を掻き立てられる困った顔でボクを見てるから、ああもういいよ明くんって、結局ボクは諦めて政さんの車に乗った。エンブレムが眩しい高級外車に。



 嵌められた。

 まさかの明くんに。



 コトの始まりは先週。ボクが政さんの部屋に通い始めて少しした頃。

 明くんがおずおずとボクに聞いてきた。



『実くん、来週の日曜日、予定ある?忙しい?』



 コウさんから時々お誘いはあったけど、ボクは行かないの一点張りだったから、政さんの部屋に行く以外特に予定も、急がなくちゃいけない仕事もなかった。

 何よりも明くんからこんな風に聞かれることは滅多にないし、時期が時期だけにピンと来て、あいてるよって答えた。



 11月23日はボクの誕生日。

 明くんが聞いた『来週の日曜日』は、その3日前の20日。



 これはボクの誕生日絡みってことが、明くんの顔からして確実だった。



 待って、ボクって明くんの、正真正銘血の繋がったお兄ちゃんだよね?明くんって正真正銘血の繋がったボクの弟だよね?

 って本気で思うぐらい、ボクを誘う明くんは恥ずかしそうに照れ臭そうにもじもじして、めちゃくちゃかわいかった。



『じゃあ、そのまま予定あけておいてね?』



 しかも背なんてほとんど変わらないはずなのに、明くんは何故か上目遣い。



 ちょっとこれ宗くんにもやってるの?

 じつの兄であるボクでさえ、やばい‼︎かわいい‼︎ってなるのに、相手が宗くんだったら。



 ………宗くんも大変だな。



 かなり本気でボクはそう思った。



 日曜日だったから、宗くんが来るから、明くんは眼鏡じゃなくコンタクト。

 最近体重が増えて顔色が良くなってお肌がツヤツヤしてる。



 笑う。約束だよ?って。



 たろちゃんと冴ちゃんのいいところを最高にバランス良く集めたハイスペック顔面が嬉しそうに。



 ちょっと明くん、それやばいって。それやめて。じつの兄にもそれは効く。ときめく。

 ああ、明くん、いいよ。大丈夫。どんなにそこに予定が入ろうとも、全力で阻止妨害してみせるよ。お兄ちゃんに任せて。



 なんて言いたくなる顔。



『最近、明の良さに気づくやつらが増えてきたんだ』



 その日の夜だったか。

 双子のかたわれにミルクを飲ませたあと、ゲップをさせるために縦抱きにして、上手にできるかな?って優しく背中をとんとんする明くんを見ながら、忌々しそうに宗くんが言ってたっけ。



 明くんからの誕生日プレゼント。

 今年は何だろう。



 明くんは手先が器用で、毎年何かしら手作り系をボクにプレゼントしてくれる。

 得意の編み物だったり、カフェみたいなオシャレなご飯だったり、スイーツだったり。



 編み物じゃないなって思ったのは、予定をあけておいてって言ったから。

 編み物だと当日おめでとうってくれるからね。違うってことは違う。

 わざわざあけておいてねって言うってことは、ボク以上にこだわり屋の明くんが、ボクの好みを聞きつつ、納得いく材料を買いに行きたいってこと。



 って、思ってたんだよ。微塵も疑わずに。



 明くんとお出かけだし〜って、ボクは約束の日、朝からうきうきと支度した。この秋吟味に吟味して新調した服をせっせと着た。



 なのに。嗚呼、それなのに。



「ちょっと遠いから、コンビニで飲み物でも買って行こう」



 何故かボクは高級外車の助手席に座ってて、何故かめちゃくちゃキメてる政さんが、優雅に車を発進させた。



 政さん、まだしばらく忙しいんじゃなかったの?

 っていうか昨日も政さんの部屋に行きましたけど、ボク。何も聞いてませんけど、ボク。



 驚きの展開に、ドキドキが止まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る