第21話

『天気が良かったらシーツも洗いますよ?』

『では、ぜひ晴れるよう、てるてる坊主を作らねばな』



 メッセージのやり取りはそう続いて、今日は晴れた。だからワイシャツの次はシーツも洗う。

 先にシーツを取ってしまおうと、ボクは初めて、リビングダイニング以外の部屋に入った。



 玄関からリビングダイニングが物で溢れているから、他の部屋もそうなんだろうと思ってびっくり。

 2部屋あるうちの片方、寝室にあったのはベッドだけだった。



 いや、ベッドが大きすぎてベッドしか置けないのかもしれないけど。



 寝室はブラインドがおろされたままで薄暗く、空気がこもっている。

 リビングダイニングではしなかったにおいが、ここではさすがにする。

 加齢臭とまではいかない、男臭。政さんのにおい。



『大好きな人のにおいって、あんまりくさいって思わないのよね』



 急に思い出した冴ちゃんの言葉に、また変にどきりとするボクの心臓。



 何でにおいの話になったんだっけ?

 確か………辰さんが病院に来た女の子に、先生おじいちゃんのにおいって言われてショックを受けたとか何とか。



 それからにおい談義になって。



『明くんはどう?宗くんのにおい』

『えっ…⁉︎僕⁉︎』

『うん。明くんはにおいに敏感じゃない?だーいすきな宗くんのにおい、イヤだなって思うことある?』

『………宗くんのにおいは………えと、どんなときのでも、好き、かな』



 恥ずかしそうに、照れながらもじもじと教えてくれた明くんに、どんなときのでも〜‼︎って、冴ちゃんとボクは盛り上がって身体を捩って畳をバンバン叩いて双子に泣かれた。

 どんなときのでもってどんなときのよ⁉︎なんて冴ちゃんは大興奮で、明くんは顔を真っ赤にしてしどろもどろになって困ってた。



 え、何で、今このタイミングでその話を思い出すかな。



 こもった空気。

 こもった政さんのにおい。

 大きいベッドにぐしゃな掛け布団。落ちている枕。

 いつから洗ってないのか、不明のシーツ。



『大好きな人のにおいって、あんまりくさいって思わないのよね』



 頭にリピートな冴ちゃんの言葉。



 窓には、てるてる坊主がぶら下がっていた。




 洗濯機を回しながら、うちから持って来たフローリングワイパーとシートで、簡単に掃除もした。



 せっかくこんないいところに住んでいるのに、このリビングダイニングがもったいなすぎる。



 掃除をしながら何度も思った。



 もったいないのは料理の道具もだった。



 ビルドインコンロ下の棚を開けてみたら、高級鍋と、それと同じメーカーのフライパンが出てきて、料理しないくせに‼︎って思わず口から出た。

 さらに同じメーカーの、炊飯やその他煮込み料理や低温調理もできるライスポットなるものまであって、使われていないそれに今度絶対説教してやるって思った。



 政さん。

 買うならせめて、ちゃんと使う人ができてからにして下さい。これじゃあこの子たちがかわいそうだ。



 完全なる宝の持ち腐れ。



 ボクはそのままパタンと、棚の扉を閉めた。


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