第20話

 その日の夜の11時頃、ボクのスマホがブルっと震えた。



 自分の部屋で仕事の動画編集をしていたボクは、集中してたこともあってその振動にびっくりした。



 隣の部屋では冴ちゃんと双子が寝てる。早寝早起きを習慣にしてる明くんも、多分もう寝てる。



 少し開いている窓からは、秋の少し冷たい風と虫の声。



 メールは政さんだった。



『今日もおいしいご飯をありがとう。しかも朝ご飯まで。キミのおかげで忙しいのも何とか乗り切れそうだ』



 そのメッセージの前と後には、もちろんにゃん様のスタンプ。

 すぐにボクも、にゃん様のお疲れにゃんスタンプを送った。



 スマホを見ているんだろう。現在進行形で。

 送ってすぐ既読がつく。

 それに何故か、ボクの口角が上がった。



『メモの件、承知した。よろしく頼む』



 メモ。ボクが今日政さんの部屋に置いて来た伝言。

 スマホでメッセージを送ればいいのに、敢えてメモにしたのは、仕事の邪魔にならないように。

 メモなら確実に仕事が終わってから見れる。そう思って。



 ボクがメモに書いて来たのは、今回のご飯配達への対価のおねだり。



『ご飯のお礼はこの部屋の片付けでお願いします。ボクも一緒にやります』



 そう書いて置いて来た。

 返事は『承知した』。



 実際にやるのは政さんが落ち着いたら。やりがいありそうって、楽しみだった。




『洗濯してもいいですか?』



 日に日にソファーに積まれていく、一体何枚持ってるの?っていう数のワイシャツに、ついにボクは降参して、そう書いたメモ用紙を置いて来た。



『ぜひ頼む。洗濯機や洗剤は好きに使ってくれて構わない』



 メモを置いてきた日の夜にそうメールが来て、ボクは次の日、休診日の辰さんが午前中から来るってことで、午前中から政さんの部屋に乗り込んだ。そして洗濯機を回した。



 洗濯をするとき、驚いたことがある。



 洗濯機の横にあった洗剤が、うちで使ってるのと同じこと。においがしないやつ。

 そして、そのすぐ近くに置いてあった、ビニール袋に入った謎の物体。



 何だろうってよく見たら、そこには洗剤と柔軟剤が入っていた。洗剤が。



 政さん………。



 出会った最初は色んなにおいがしていた政さんが、今は全くにおわない。



 どきん。



 洗濯機前で、心臓がへんに飛びはねた。




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