第18話

「実くん?」

「え?あ………おかえり、明くん」

「ただいま」



 忙しくなるっていう政さんに、じゃあボクがマンションにご飯を届けに行くって約束をした次の日の夕方。



 今日の夕飯の準備をしつつ、昨夜の政さんとの電話を思い出して笑ってたら、ちょうど帰ってきてた明くんに不思議そうな顔をされてしまった。



「宗くんから政さんのマンションの鍵預かったから、ちょっと待ってね」

「うん、ありがと」



 昨夜。



 気づけば言っていた『政さんさえ良ければ、ご飯作って置いておきますよ?』に、政さんは良いに決まっている‼︎って、思わず耳にあてていたスマホを遠ざけるぐらい大きい声で言った。



 それから5分ぐらいは、政さんがいかにボクのご飯が好きで、毎日帰ってからのご飯が楽しみで仕方なくて、時々入る夜勤で食べられない日がどんなに苦痛かと聞かされた。熱弁だった。



 それを思い出して笑ってるとことを、明くんに見られた。



 明くんは手洗いうがいをしてから、双子部屋と化した、今は静かな居間を覗いている。

 冴ちゃんと双子はお昼寝タイム。



 悪い気はしないよ。



 ボクは家事が………料理が好きで、絶対に叶わないけど、いつかボクの旦那さまにおいしいってたくさん食べてもらいたいと思ってる。

 毎日せっせと作るのは、その日のため。いわば本番に向けての練習。



 ………絶対に来ない日に向けての、練習。



 でも、絶対に、ではないのかなって、最近になって思うようになった。

 最近の、明くんと宗くんを見て。



 明くんと宗くんは、法律だの戸籍だの関係なく、結婚してる。気持ち的に。

 ボクもそんな相手を見つければいいんだよね。



 ………でもそれは、偶然再会したコウさんじゃ、ない。



「よく寝てるね」

「うん。よく寝てるでしょ」



 双子の寝顔を近くまで行って見てきた明くんが、今日もかわいいってご満悦顔で台所に戻って来た。



 ………そういう明くんがやばいぐらいかわいいんだけど。



 って、こっそり思ってることは秘密。



 明くんは台所の床に置いた学校のリュックをごそごそして、明くんと飲む紅茶を準備するボクに、はいこれって小さな袋を渡してくれた。



 この中に、政さんが住むマンションの鍵。



 どきんって、何でかなった。



 袋を開けると、銀色の鍵が1本とカードが1枚入ってた。



「渡せば分かるって、宗くんが」

「うん。政さんから聞いてるよ。ありがと」



 銀色の鍵は外のオートロックの鍵で、カードは玄関のカードキーって。

 オートロックだけでも、何もないうちとは違うな、なのに、カードキーって。



 そう思ったけど、電話の後にメールで教えてもらった住所を思い出して納得。

 確かその辺りは、めちゃくちゃ高級までは行かなくても、一部屋でうちが二部屋か三部屋ぐらい借りられるようなところだったはず。



 ついでに言えば、政さんはいかにもな高級外車に乗っていて、着ているスーツもほどではないにしてもそこそこのを着てる。最近すごい勢いで展開中のショップのやつ。

 何故かボクと明くんにって上着をくれたところの。



 伊達に医者じゃないってこと?高給取り?

 ならいいけど、お給料が右から左とか?



 ………失礼かもだけど、政さんならありそうなんだよな。そういうの。

 だって、に言いくるめられてお金をほいほい渡しちゃうような人だよ?



 初めて行く政さんの部屋に、楽しみのようなこわいような、複雑な気持ちだった。





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