第14話
コウさんから電話がかかって、会って話したいって言われて、ボクはバイクでうちから10分もかからないぐらいのところにあるコンビニに行った。
話の内容はボクの子どもの面倒発言と今日の遭遇のついてだろう。
電話で話してもいいのかもしれないけど、コウさんの声があまりにも真剣で思い詰めてる感じだったから、ボクは会って謝った方がいいと判断した。
誤解を招くように言ったのはボクで、ボクの想像以上にダメージを受けているのがコウさんだ。
電話で軽く謝るだけでは、申し訳ないような気がした。
時刻は夜の8時を少しまわったところ。
うちには宗くんが来ていて、政さんが多分そろそろ連絡をくれる頃。
一応もう政さんのご飯はタッパーに用意してきた。あとは渡すだけ。
冴ちゃんも明くんも宗くんも居るんだから、ボクが居ない間に政さんが来ても別に大丈夫。
でも、できれば政さんが来る時間に間に合うように話を終わらせて帰りたい。
なんて思う理由を、ボクは何故どうしてと深く考えることはしなかった。
ボクの何かが告げてるんだよ。
政さんのことは深く考えるなと。
このコンビニの近くに保育園がある。明くんと宗くん、あおちゃんが通っていた保育園とは違う保育園。
驚いたことに、コウさんはその保育園の保育士だった。
こんなに近いのに今まで遭遇しなかったのは、コウさんが春に転勤してきたばかりだから。と、園児を連れての散歩コースを、今日に限って変えたから。
いつもより早口な電話口で、さっきコウさんが言っていた。
偶然ってこわいよね。
「みの」
駐輪場にバイクをとめて、ヘルメットを脱いだタイミングでコウさんの声。すぐ後ろから。
コウさんは、憔悴しきった顔をしていた。
「………弟?」
「はい。弟です」
コンビニの中で話すようなことでもないし、どこかに移動して話すほど時間もないし、店内に入らず車に乗ったままでは、店員さんに何か言われるかもと、とりあえず誰も居なかった屋外の喫煙コーナーに移動して、昼間抱っこしてたのはボクの弟だと正直に話した。
「年離れすぎじゃない?」
「27才差ですね」
「………27才って。え?じゃああの女の人は」
「母です」
「は?」
「抱っこしてた赤ちゃんはボクの弟で、一緒に居たのは、ボクのじつの母ですよ」
「じつの母って、いや………若すぎだろ」
「母はボクを16で産んでますから」
「16⁉︎」
「はい。ちなみに父はそのとき18です」
「………すごいな。衝撃的すぎる」
そうだと思う。
昔から一緒に居ると親子ではなく、年の離れたきょうだいだと思われることの方が多かった。
これでも昔は………小さい頃は冴ちゃんのことをママって呼んでた。
でもきょうだいに見られることの方が多かった周りのあまりの反応に、ボクはいつからかママ呼びから冴ちゃん呼びに変えた。
あまりに若い両親は、あまりにも少数派だった。
そして世間は、少数派にものすごく厳しい。
「ボクはコウさんの保育士さんスタイルが衝撃的でしたよ?」
「………ああ、よく言われる」
「ですよね」
「じゃあ、お母さんが抱っこしてた子は?」
「弟です。双子なんですよ」
「双子⁉︎」
「はい。一卵性の」
なるほどってコウさんは言って、はあああああってものすごく大きく息を吐き出した。がっくりと、大きく項垂れて。
「俺はてっきり妻帯者に手を出してしまったのかと」
保育士という仕事をしながら不倫なんて、もしそれがバレてしまったら、コウさんの信頼は地に落ちるだろう。しかも男相手じゃなおさら。
世間は少数派には、本当に厳しすぎるぐらい厳しい、から。
「ごめんなさい」
ボクはコウさんに、頭を下げて謝った。
「違って良かったよ」
安堵した声に、くすって笑い。
頭を上げたら、そこにはいつものコウさんが居た。
誤解はといた。謝った。許してくれた。
なら、もうここに居る必要はないと、じゃあ帰りますって言おうとしたときだった。
視界の端にスッとうつった店に入ろうとする人影。
「政さん⁉︎」
それは、人違いでも何でもなく、政さん本人だった。
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