第13話

「………え?」



 衝撃。



 っていうか、目が点?フリーズ?え?とか、は?とか。



 隣にいた冴ちゃんがどうしたの〜?って言ってるけど、ボクの耳には届いても届かずで、ボクはその衝撃の光景から目も意識もそらせなかった。



 昨日の今日。



 昨日ボクは久しぶりに人間の三大欲求のうちのひとつを満たしに、以前ちょこちょこ通っていた場所に顔を出した。正確には出そうとした。



 そこに入る直前で、以前そこで出会って一時期付き合うかどうかって話にまでなった人、コウさんに再会して、そのままふたりでホテルに行ってお互いの欲を満たした。



 それが昨日で今が今日。



 コウさんが歩いていた。



 ボクは冴ちゃんと一緒に双子の散歩をしていた。

 散歩と言っても歩いてるのはボクと冴ちゃんで、双子はボクが恵、冴ちゃんが紡をそれぞれ抱っこ紐で抱っこしている。



 目が点。フリーズは、衝撃の相手………コウさんも、そうだった。



 コウさん。

 昨日知ったフルネームは青葉昂明さん。

 そして同じく、昨日知ったコウさんの職業は、その外見からはまったく想像もつかない、聞いた瞬間ツボすぎて窒息寸前まで笑った。



 ………保育士。



 黒の長袖トレーナーにベージュのパンツ。そして青と白のチェックのエプロン。



 名高いブランド品………ではないけど、いつもバリバリに決めているオシャレで大人の色気がむんむんなコウさんが、顔はそのままに保育士スタイル。

 しかもコウさんは、小さい子を数人乗せた、昔ながらの乳母車?を押していた。



 これを衝撃と言わずに何を衝撃と言うんだろう。



「実くん?」

「あ、うん。ごめんね、冴ちゃん」



 あまりの衝撃的光景に足が止まっていたボクを、少し先で冴ちゃんが呼ぶ。不思議そうに。



 そりゃ不思議だよね。いきなり保育士さん見てフリーズじゃ。



 コウさんはコウさんで、ボクを見てものすごく驚いた顔になっていた。

 昨日のメールで『子どもの面倒を見ないといけない』なんて送っていただけに、これはまずいかもと思った。



 コウさんはきっと冴ちゃんをボクの奥さんだと思ってる。

 つまり昨日、ボクとコウさんは浮気というか、不倫をしたと。



 コウさんの顔はそんな気がする顔になっていた。



 に通っていたのに、コウさんは意外と真面目だ。



『こうして外で頻繁に会うなら、付き合おうか』



 って、言い出したのはコウさん。



 以外でも会うようになって、ホテルだけじゃなく普通にデートもするようになって、まったく惹かれなかったと言えば、それはウソだ。



『付き合うなら俺は二度とあそこには行かない』



 カッコ良くてスマートな大人でしかも超絶技巧。

 そんな人にそんなことを言われて、まったく惹かれないでいられるとしたら、その人はもはや人ではないと思う。



 結局付き合うには至らなかったけど、付き合っても良かったのかもとは、正直何度も思った。



「こう先生?」

「あ?ああ、悪い」



 ボクは冴ちゃんに呼ばれ、コウさんはもうひとりの小柄な男の保育士さんに呼ばれて、ボクたちはすれ違った。



「こんにちは」

「こっ…こんにちは」



 すれ違う瞬間、小柄な男の保育士さんに挨拶をされて、ボクも慌てて挨拶をした。



 小さい。そして若くてかわいい。



 小さいって言っても、あおちゃんよりは大きい。明くんの友だちの光くんぐらいだろうか。

 ボクは受けとかネコって言われる役目なのに、平均以上の身長があって、ボクはそれがイヤだった。



 これぐらいが良かったな。



 思っても仕方ないことを思って、そんな自分を笑った。



 コウさんとはそのまま、目も合わさないぐらいのそっけなさで別れた。



 ………のを、バタバタする家事育児にすっかり忘れてて、夜、ものすごく焦った声で電話をかけてきたコウさんに、ボクは呼び出された。


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