第12話
『
あの場所で出会った人と、やることはやってもキスはしない、名前も連絡先も教えない。を徹底してたコウさんがボクを抱き潰したあとフルネームを名乗った。あと、ボクが消してしまった連絡先も。もう一度。
諸事情で呼び名と連絡先は前にも教えてもらってたけど、あの場所で出会ったボクに、徹底して避けていたキスをして、しかもフルネームまで。
確かに、最後に会ったときに言っていた。次に会ったら口説くって。
でもそれは、もう会うことはないだろうという前提での言葉で、単なる社交辞令。それぐらいはボクにだって分かる。
何で?
コウさんが何を考えてるのか、さっぱり分からなかった。
すぐにみのは?って聞かれた。
答えた。
コウさんのフルネームを聞いて、黙ってるなんてできなくて。
『みのって本名だったんだ?』
『そうですよ』
『俺はてっきりみのがつく名字だとばっかり思ってた』
珍しくない?って言いながら、コウさんはスマホにコウさんの連絡先を登録して、そのままベッドにうつ伏せてへばっていたボクを仰向けにして覆いかぶさった。
『名前なら普通、みのるとかみのりですね』
『うん。園にも居る。みのりちゃん』
『園?』
『………園。保育園。俺、保育士だから』
もしかしてまた始まるんだろうか。
しないはずのキスをまたされて、もうキスに応えるのも無理って、されるがままされていたら、まさかの。
『保育士?誰が?』
『俺』
その後ボクは、窒息するかと思うぐらい笑った。
政さんのご飯を用意して、ボクは自分の部屋に逃げた。
いつもは台所に居るけど、今日はそんな体力も気力もなかった。
抱き潰されてへろへろ。
2組の新婚夫婦の空気にあてられてへろへろ。
………宗くんからの容赦ない口撃にへろへろ。
どうにも怠い心と身体に、はあって大きく息を吐いた。
政さんに、今日の夕飯は辰さんに渡したって連絡しないと。
そう思って開いたスマホに、ボクを抱き潰した張本人のコウさんから、さっそく連絡が来ていた。
今日の今日で連絡。
どうしたって言うんだ、この人。
っていうか、保育士って本当に?
今日は平日。本当に保育士なら仕事じゃないの?
『日曜日、映画でも観に行こう』
コウさんからの連絡は、デートのお誘いだった。
この人は本当にどうしたんだろうか。
あんなにあの場所で出会う人間を警戒してたのに。
『子どもの面倒を見ないといけないので行けません』
日曜日は辰さんが来てくれるから、別にボクは居なくてもいいんだけど。
わざと誤解を招く言い方でメッセージを送ってから、政さんにもご飯の件をメッセージした。
『承知した。いつもありがとう』
政さんからはすぐに返事が来て、コウさんからは。
コウさんから、その日連絡が来ることはなかった。
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