第11話

 何で政以外のやつとやった?って聞かれても。



 ボクは宗くんのご飯を準備したあと、今日は辰さんに政さんの分を持って行ってもらおうと、政さんのご飯をタッパーに詰めた。



 肉体的疲労と精神的疲労で、政さんが来るのを待ちたくない。今日は早く寝たい。

 何よりさっきの宗くんの言葉が気になって、どんな顔で政さんに会っていいのか分からない。



 ボクのすぐ後ろでは、明くんと宗くんが時々喋ってる。いつも通り。普段通り。



 来てすぐのボクへの気持ち悪いな、とかの言葉に、明くんは宗くんって制するように呼んだ。呼んで止めてくれた。

 宗くんも、それで止まってくれた。

 あれ以上何かを言われてたら、ボクは大人気なく宗くんに怒り出してたかもしれない。



 喋ってる。時々。途切れ途切れ。



 これ僕が作ったんだよ。とか。まじ?うめぇ。とか。

 少しの沈黙のあと、今日もおにぎりうまかった。明のツナマヨすげぇすき。とか。

 ありがと。明日は昆布にするね。とか。



 違うんだよね。声が。



 ふたりは基本的に静かな部類に入ると思う。

 明くんは昔から静かでおとなしくてじっとしてて、宗くんは、年のわりに落ち着いてるような気がしないでもない。

 必要なこと以外喋らない。とまでは言わないけど、ふたりとも比較的そっち寄り。

 比較的そっち寄りの、比較的少ない言葉が、ボクには眩しかったり鋭かったり痛かったり。



 明くんの声は小さくて控えめな穏やかボイス。

 宗くんの声は低くて雑でぼそぼそボイス。



 ふたりだけで話すときに加わるのが、甘み。



 テーブルの上のタッパーを取るついでに、チラッとふたりを盗み見た。



 明くんは編み物をしてて、宗くんはご飯を食べてる。

 ボクが見たタイミングで、何故なのかお互いを見て目を細めた。



 ………空気が甘いピンク色に見えた。



 盗み見に気づかれないようにすぐに目をそらして、今取った漬け物用のタッパーに切ったぬか漬けを入れた。



 空気がピンクなふたりに感じる胸の痛みは、無視するに限る。



『キミのぬか漬けが好きだ』



 政さんにそう言われてから、なるべく入れるようにしてる。面倒がらず作るようにしてる。身体にもいいしね。



 タッパーに入れながらも、何で政以外のやつとやった?って、宗くんの責めるような声が、耳からずっと離れなかった。



 ………何でって言われても。



 ボクと政さんは親の連れ子同士ってだけ。

 政さんは、ボクと同じく仲のいい両親を見て育ったために、ボクと同じく結婚に憧れを抱いてて、そんな政さんの理想にボクの家事スキルが合っただけ。



 運悪く結婚をチラつかせて貢がせる女の人に何回も引っかかって、そのせいで今は女性不信だけど、政さんはノンケ。ノーマル。女性を恋愛や結婚対象にできる人。



『政さんは実くんの運命の人だよ』



 静かに穏やかに、まるでお告げのように告げた明くんの言葉が、何故だかぽこんと頭に湧き出た。



 違うよ。



 ただの連れ子同士。

 政さんが好きなのは、ボクの家事スキル。



 タッパーに詰め終えて、タッパーを大きめなバンダナに包んで、それから紙袋に入れた。



 それだけだよ。



 どこもかしこも、痛かった。

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