第9話
「実くん、目赤いよ?大丈夫?」
「えっ………⁉︎あ、うん。大丈夫だよ。パソコンのやりすぎかな」
夕方。
帰って来たらちょうど誰も居なくて、ボクは急いでシャワーを浴びて、服も洗濯機に突っ込んで洗った。
証拠隠滅。
もちろん、ホテルでシャワーは浴びた。
久しぶりの、しかもコウさんとの行為。
汗はもちろん、涙と、泣いたからの鼻水と、その他ボクやコウさんから排出された体液とにまみれてとてもじゃないけどそのままでなんて帰って来られない。
でも、だからこそもう一度うちで浴び直さないと、基本無臭な我が家な上に、においに敏感な明くんじゃ、ホテルのにおいは厳しい。
何のにおい?って突っ込まれたらと考えると相当に厳しい。
服もそう。ホテルのにおいと、多分コウさんの香水のにおいもついてる。そう思って洗濯。
証拠隠滅。
でも、久しぶり過ぎた、過ぎる快楽に泣いた赤い目だけは隠滅できなかった。一応目薬はしてみたけど、気休めでしかなかった。
ボクがシャワーを浴びている間に、冴ちゃんと辰さんは帰って来た。双子を連れて散歩に行ってたらしい。
それから明くんが帰って来て、色んなことに敏感に気づく明くんにしっかり泣いた赤い目を突っ込まれた。
「実くん、今日の夕飯準備は僕も手伝うから、ちょっと座ってて」
明くんはそう言って自分の部屋に行って、何やらガタガタと音を立てて戻って来た。
そのまま、手にしたものをレンジに入れてあたためた。
レンジはすぐにあたため終了の電子音を鳴らして、明くんはそれをハンドタオルに包んでボクにはいって。
「これ、目の上に乗せても気持ちいいよ」
明くんに言われて台所の椅子に座っていたボクに差し出されたのは、おばあちゃんが冷え性で寒がりの明くんに作ってくれたあずきのカイロだ。
明くんは寒くなるとこれをあたためてお腹に乗せて寝てる。
実くん上向いてって言われて、ボクはそれに従った。おとなしく言うことを聞いた。
じゃないと、良心が。
胸の辺りがチクチク痛む。
本当は、ずっと痛かった。気づかないフリをしてただけで、あの場所に着いたその時から。
「熱くない?」
明くんの、小さく控えめな、でも穏やかで優しい声がボクに聞く。
「大丈夫だよ。気持ちいいね、これ」
「でしょ?僕今年はまだこれ使わなくても大丈夫だから、実くんしばらく使って?」
じわじわとあたたまる目元に合わせて、チクチク、と良心が痛い。
ごめんね、明くん。パソコンのやりすぎなんて、ウソをついて。
もしウソだとバレたら明くんはボクに何て言うんだろう。
もしボクが、好きでもない人に思いっきり抱かれて、あまりの気持ち良さに泣いてきたって知ったら。
じわじわ、チクチク。
じわじわ、チクチク。
「いつもありがとう、実くん。あんまり無理しないでね」
ふんわりとボクを包み込むような明くんの声音に、涙がじんわり、何故か浮かんだ。
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