第6話

 ボクは学校での評判や明くんが思っているほど真面目な人間じゃない。



 高校から看護の専門学校まで、じつはこっそり、ボクはアルバイトをしていた。



 モデルの。

 しかも、ヌードモデルの。



 声をかけてきたのはボクが通っていた高校の先生。

 ボクが通っていた高校は、ボクが行っていた普通科とは別に美術科があって、その美術科の先生に誘われた。いい身体してるね。モデルやらない?って。



 たろちゃんが死んじゃって、テレビや雑誌に追いかけられて、我が家が悲惨なときだった。



 当時先生は多分30ぐらいだったと思う。

 ヒョロッと背が高くてボサボサ頭で、タバコのにおいが少ししてて、いつも指や服に絵の具らしき汚れがついてる人。



 ボクは即答した。いいよって。



 先生はそれが意外だったらしく、ちょっとびっくりしてからニヤって笑った。



 モデルは先生の家で、先生と1対1のときもあれば、先生の知り合いの絵描きさんたち数人のときもあった。

 いつもヌード。ときにはフルヌード。

 すごいポーズのときもあった。

 アルバイトだからアルバイト代ももちろんもらっていた。脱げば脱ぐほど高額。ポーズが際どければ際どいほど高額。



 決して褒められたバイトではないってことは、ちゃんと分かってた。だから誰も知らない。

 そしてボクは、やってと言われればいいよと言って、一度も断らなかった。




 先生とはでもあった。

 でも別に付き合ってはいない。行為は慰め。



 言い訳にしか聞こえないと思うけど、そんなことでもしてなきゃ、耐えられない毎日だったんだよ。

 それぐらい、たろちゃんの死は、知らない人に追われるってことは、ストレスの日々だったんだよ。



 専門学校に入ってからは、先生に教えてもらったにも行ってみた。

 ボクみたいな人が集まって相手を探す場所。



 そこは先生と会わなくなって、看護師として働くようになってからも定期的に通った。

 何せ手っ取り早いからね。人間の三大欲求のうちのひとつを、自分以外で満たすために。



『山田は優しいんだな。しかも真面目だ』



 そう言ったのは先生だった。



 でも違うよ。全然違う。ボクは周りが思うほど真面目でも、優しくもない。



 真面目で優しい人間は、コイビトでもない人に脚を開いて、悦んで受け入れたりなんかしない。

 芸術のためなのか下心があるのか、舐め回すような視線をよこす知らない人に、全裸を晒したりしない。



 ボクは普通に、人には言えない部分を持っている人間だ。




『実くん、たまには出掛けて来たら?』



 看護師の仕事がなくなったのと、双子が産まれたのが同時期だったこともあって、かなり引きこもり生活になっていたボクに冴ちゃんが言った。



『今日は辰さんが来てくれるし』



 それを聞いて、たまには夫婦水入らず、親子水入らずがいいかなって、ボクは久しぶりに買い物以外で外に出た。



 行き先は、冴ちゃんに言われたときにもう決めてた。

 行き先は、ボクが一時期通っていた。男が男を求める快楽の場所。



 何故か頭の中をチラチラと政さんが過ぎった。

 そしてボクはそれを無視した。頭の中から追いやった。



 彼はノーマル。ノンケ。

 彼は冴ちゃんの再婚相手、辰さんの長男で、宗くんと双子の、兄。



 頭の中でチラチラするたびに、そう言って追いやった。



 駅までバイクで行って、そこからは電車。途中1回乗り換えて着いたそこは、ひっそりしているようで熱気のすごいところだとボクは知ってる。



 前回来たのはいつだったっけ。



 考えながら、入ろうとしたときだった。



「みの?」



 声をかけられて、振り返ったそこに居たのは。



「………コウさん」



 コウさん、としか知らない、で知り合った、以前付き合おうかどうしようかと何度も話し合った、身体の相性が最高な人が、立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る