第3話

 最近明くんがヤバい。



 ………って、昨日だったか一昨日だったか、何気なく呟いたら、分かる‼︎って冴ちゃんに腕をバシバシ叩かれた。



 それぐらい最近本当に明くんがヤバい。



 はにかむように笑って、明くんお気に入りのカーディガンをいわゆる萌え袖にして………多分本人は寒いだけ………萌え袖の手でズレた眼鏡をひょいっと上げた。



 そのままトイレへ。



 ………どうしよう。今日も鬼かわいいんだけど、ボクの弟。



 これは、本人に言うと本当に顔が青ざめていくからあんまり言わないようにしてる。

 明くんは何故か頑なに、自分の容姿がかなり、ものすごく、めちゃくちゃ立派に整っているということを全力で否定する。それはそれは不思議なほど。



 と言っても、分からなくはない。



 明くんはとてつもなく虚弱体質で、177と背は高めなのに体重が40キロ台と恐ろしく少ない。

 つまりひょろひょろを通り越してガリガリ。

 その上基本外に出ないから色白。年中体調を崩しているから顔色が悪い。肌艶が悪い。



 ぱっちり二重の薄い茶色の目は、長めの前髪と黒ブチ眼鏡で隠されている。

 スッと通った高い鼻と、大きすぎず小さすぎない、厚すぎず薄すぎない唇はマスクによって隠されている。



 さらさらの黒髪はスピード重視の床屋で適当に切られ、寝癖が直されるだけでセットされることはない。



 そしてそんな自分を鏡で見て、どれほど宝の持ち腐れをしているかに気づかず落胆する。



 さらに言えば注目されたり目立つことを極端に嫌う明くんは、気配を消すのがうまい。

 パッと見地味な明くんが、気配ゼロで立っていたら、結果は一目瞭然。



 1ヶ月に1回ぐらいのペースで、同じマンション住むオシャレが大好きな明くんの幼馴染みのあおちゃんこと菊池亜生が、明くんという素材を最大限活かす恰好をさせるんだけど、普段とそのギャップが激し過ぎていつもあおちゃんに拍手と賞賛を送っている。



 そして明くんは面倒くさそうで、興味なさそうだった。



 そう、お気づきだろうか。『だった』んだ。過去形なんだ。



 少し。

 まだほんの少しではあるんだけど、少しずつ明くんが外見を気にし始めた。



 それは150%宗くんのため。



 宗くん。………冴ちゃんの再婚相手である辰さんの次男で、小さいころ同じ保育園に通っていた、明くんの

 ふたりは明くんの保育園時代の記憶喪失や同性、義兄弟という枠をこえて想い合っている。たろちゃんと冴ちゃんのように愛し合っている。



 その愛する宗くんためだよね。



 少しとは言え元は宝。持ち腐れが解消されつつあり、結果ヤバい。正直エグい。



 明くんは黒ブチ眼鏡をやめて、平日は薄いフレームのオシャレ眼鏡をかけるようになった。

 土日はコンタクトをするようになった。

 髪の毛をセットするようになり、スキンケアをするようになった。

 マスクは必須アイテムのままだけど、白い使い捨ての不織布マスクから、天然素材でできたスタイリッシュなブラウンやネイビーのマスクになった。



 それだけじゃない。

 最近明くんは以前ほど体調を崩さないようになって、ここ最近では体重が増加傾向にある。

 加えてスキンケアの効果か宗くん効果か、肌艶がいい。血色がいい。



 特に誰もいない鍔田家に、宗くんと勉強するという名目でお邪魔して帰って来たときの明くんは、一体ナニを勉強しているのか、つやっつやしていていっそ眩しいぐらいだ。



 トイレ、手洗い、うがいを終えた明くんが台所に戻って来てポットの白湯をマグカップに注いで飲んでいる。………萌え袖のまま。



 寝起きなだけにぴよんとはねている髪の毛がかわいい。寝癖までもかわいい。かわいすぎるんだよ、何でこんなにもかわいいんだ、ボクの弟は。



「今日は実くんと冴ちゃんのおにぎりも作るね」



 ボクの方を振り返ってにっこり笑う鬼かわいい明くんを、宗くんに見せたくて仕方なかった。

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