第2話

 16でボクを生んだ冴ちゃんは、若くして未亡人になったのにも関わらず、ずっと誰とも付き合っていなかった。



 恋人作らないの?



 って、いつだったか明くんが居ないときに聞いたことがある。



 たろちゃんより素敵な人が見つからないから。



 冴ちゃんはそう言って、たろちゃんトークを炸裂させた。



 子どものボクが見ても分かるぐらい、冴ちゃんとたろちゃんは、陳腐な表現だけど本当に愛し合っていた。



 毎日ふたりはとても幸せそうだった。

 あの日、たろちゃんが死んでしまうまで。



 いつも、いつでもたろちゃんの眼差しは冴ちゃんに言っていた。愛してるよって。

 いつも、いつでも冴ちゃんの眼差しはたろちゃんに言っていた。愛してるよって。

 いつも、いつでもそのふたりの眼差しが、ボクと明くんに言っていた。愛してるよって。



 ボクもいつかそんな相手と巡り合いたいと思った。

 そんな相手と巡り合って、愛し合って、そして生まれる新たな命に、ボクが注いでもらったように、愛情を。




 ピピピピッ…ピピピピッ…




 枕元のスマホが、起きろ起きろと電子音を鳴らし、ボクは重い瞼を持ち上げた。

 すぐ横にはベビー布団が敷いてあって、そこに双子と双子の間に冴ちゃんが突っ込んで寝ていた。



 この年になって弟が生まれて、この年になって母親と同じ部屋で寝ることになるなんてね。



 久しぶりに見たたろちゃんと冴ちゃんの夢に、ボクははあって大きく息を吐いてから身体を起こした。




 双子が生まれるまで、朝はウォーキングをしていた。

 歩くのは身体にはもちろん、脳にもいいらしいし、日本人に不足がちなセロトニンの分泌も活性化するらしい。



 そういう色んな理由からずっと歩いていたのに、双子が産まれてからは行けずにいた。双子が心配で。



 別に、行っても大丈夫だとは思う。冴ちゃんがいるのだから。そして明くんもいるのだから



 そう思ってはみても、冴ちゃんは寝不足と育児疲れで、双子の泣き声では起きないかもしれないとか。

 明くんは体調が悪くて起きれないかもしれないとか。

 考え出したら心配で、心配すぎて行けなくなった。



 もう少し双子が大きくなるまでだ。



 トイレ、手洗いうがいを済ませて、ボクは弟たちのお弁当を作るために、冷蔵庫を開けた。




「おはよう、実くん」



 6時半。



 一通りの家事を終えて、お気に入りのマグカップでコーヒーを飲んでいたら、隣接する部屋の戸が開いて明くんが起きてきた。



 明くん。



「おはよう、明くん」



 ボクのひとまわり年下の、ボクが超溺愛する………弟。

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