第3話 通販番組スタート

 地下練習場の出入口が見えてくると、中からはハンターたちの雑談が聞こえる。今日もお客さんは多いみたい。


 出入口には番組スタッフが待っていて、魔法アイテムを受け取って身につけた。この魔法アイテムは近くの人と念話ができる便利な代物だった。

『音声は平気? 聞こえるかな』

 男性プロデューサーへ念話を送った。通販番組は生配信なので、番組中の状況を知るためにプロデューサーと念話でやり取りする。


『鮮明に聞こえています。エリ姉さんのほうも平気です』

『今日もよろしく』

『思う存分楽しんでください』

 念話を終わりにした。


「エリ姉も準備は終わったかな」

「お姉さんはいつでも大丈夫です」

「通販番組を楽しもうね」

 大きく深呼吸して気分を落ち着かせると、私の準備も整った。


 エリ姉と一緒に中へ入った。奥側には対戦エリアがあって一段高くなっていた。通販番組で使う場所だった。手前には三十人程度のハンターたちがいて、人間族以外にもドワーフ族やエルフ族も見受けられる。


「お待たせしました。あと少しで通販番組を始めるね」

 ハンターたちから拍手が起こって、声援もあって熱気があった。エリ姉は余裕みたいで、声援に応えて手を振っていた。二人で対戦エリアに上がって、一番奥に用意したテーブルと椅子に向かう。ハンターと向き合う形で通販番組が始まる。


 椅子に座った。テーブルの横にある箱には、今日の宝石アイテムが入っていた。

『定位置についた。いつでも平気よ』

『通販番組を始めます。他のハンターギルドへ映像を流します』


 魔法を使った配信を確立させて、今日はシュンターリア王国にある全ハンターギルドがお客さんだった。購入の連絡はハンターギルド通信網を利用させてもらった。

 お客さんから見えない位置に、配信と同じ映像が表示されている。

 私とエリ姉が写し出されているのを確認した。


「今日も楽しく通販番組を始めるね。MCはもちろん私、マイナよ。コメンテーターはいつも素敵なエリ姉こと、エリーロアが担当するね」

「お姉さんが宝石アイテムの凄さを説明します」


「今日はエリ姉自身が付与魔法を使った、特別な宝石アイテムも出てくるよ」

「あのアイテムかしら。今から楽しみです」

「最初は通販番組の説明ね。エリ姉にお願いできるかな」

 隣に座っているエリ姉へ視線を向けた。いつもと同じアドリブだった。


 簡単な流れは決めているけれど、それ以外は私とエリ姉に任されていた。緊急時や進行具合でプロデューサーから連絡が入るけれど、楽しむにはアドリブが大事だと思っている。

「ちょっと油断していたかしら」

「宝石アイテムの効果でも考えていたのかな。今日の説明はエリ姉に任せたよ」


「お姉さんが説明します。マイナ通販番組は自由で楽しくお届けしています。現地から宝石の直接購入や、加工と付与魔法は同番組内で実施します。そのため安価にお届けできます。マイナが設立したマイナ通販番組。可愛いマイナを今日もよろしくお願いします」


 最初から私をネタに振ってきた。たしかに私が設立した通販番組だけれど、私の宣伝みたいで恥ずかしい。素の状態かわざとか分からない発言だった。

『笑顔で対応をお願いします』

 少し固まっていたみたい。


「エリ姉は最初から飛ばすよね。後半部分は忘れてほしいけれど、無駄な経費はかけていないから買いやすい価格は確かよ」

「マイナの驚いた顔も素敵です。お姉さんが説明した甲斐はあったかしら」

「切り返したいけれど進行が優先ね。続いてモデルさんの紹介よ。このハンターギルド所属で偵察が得意な、猫族のミレミランさん」


 ミレミランさんが立ち上がって、彼女はハンターたちに両手を振りながら、対戦エリアの奥側へ進んだ。最前列で横断幕を広げたハンターたちがいた。きっと同じパーティーの仲間ね。


「ミレミランさんは魔法も使えます。宝石アイテムを使う姿が楽しみです」

「青白い毛並みはムーンストーンみたい。月のような輝きできれいね」

「頑張るにゃー。みんな応援してにゃ」

 元気ある声だった。


 猫族は小さな音も見逃さない耳と、リズムを取っている尻尾が特徴だった。ミレミランさんの雰囲気は明るくて、今日も楽しめそう。

「猫族特有の革装備も似合っている。ミレミランさんはハンターランクCみたい」

「熟練と言われるランクBが近いという噂かしら。魔物退治に偵察は重要です。熟練と言わず一流のランクAを目指してもらいたいです」


「私は魔物が怖いから、ハンターの皆さんには頑張ってもらいたい。宝石アイテムがあれば今以上に活躍できると思うのよ」

「マイナは商売上手かしら。最初の宝石アイテムは何?」


 ミレミランさんが所定位置に着いた。視線を横に移動させて箱の中を確認すると、胸元のみの灰色トルソーに宝石アイテムが飾ってある。宝石アイテムをお客さんへ見せないようにトルソーを取り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る