第18話

 ゆうあと小野はホテルのロビーで呼び出しを待っていた。

「あの、訊きたいんですけど?」

「はあ?」

 小野はもう眠さで特に何も考えるということをしなかった。返事もおざなりである。

「ものによっては要求金額よりも多く出すって、どういうことですか?」

「ああ? 条件はありますかとかいうから、何か特別なことでもしてくれるのかと思って」

「ものってなんですかねぇ?」

「別段わたしは普通でいいですよ? ただ最後まで普通にしてくれれば、条件とか言われるので、何かあるのかと思っただけなので——」

「いや、わたしよくお客さんで洋服の指定とか、変なことしてほしいだとか要求されることあるので——」

 小野には想像できなくはなかったが、彼には自分自身がそうなることを想像できなかった。

「いや別に普通でいいです。そんないろいろ条件つけても面倒なだけでしょう? どうせ長くて2時間くらいの短い時間で、何をどういろいろしようっていうんですか——」

 彼女は仕事という意識があるのか、接客をするために小野のいうものによってはという言葉に営業精神みたいなものを働かせているらしかった。

 ゆったりとした時間の中でそんな話をしていると、部屋番号でゆうあと小野は呼ばれ、キーを受け取るとそのままエレベーターに乗り込んだ。その中でまたゆうあは小野に話した。

「この間うちの客で、なんか違ったとか言われたんですよ、わたし」

「はあ——?」

「なんか違うってどういうことなんですかね、こういうサイトつかって、出会うまでに男の人は数千円課金しているわけでしょう?」

「まあそうですね——」

「それなのにいざ直接会うところまで行って、なんか違ったって、どういうこと? ってこっちとしてはなるんですよ」

「いや別段その気持ちはわからなくはないけどね——、多分その人は、写真で想像していたイメージとゆうあさんの実際の雰囲気が合わなかったっていうだけだと思いますよ。それからその時の精神的な状況とかにもよるし——。緊張して気持ちが萎えちゃっただけかもしれませんし——。本当のところはその人にしかわからないですけど——」

「そうなんですかねえ?」

 実際小野も今日これからはどんな感じにできるか、疲労のために自分自身でも検討が付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る