第17話

「わかりました。——あの、9時でもいいですか? 待ち合わせ」

 目が覚めると最後に送ったメールに返信が来ていた。



 彼女は初見、チンピラの連れのような恰好だった。見た目はどうかはわからなかった。小野が好んで付き合う相手でもないが、嫌いなタイプでもなかった。

 髪は赤茶色に染めているようだった。ライトブラウンといったところだろうか? キャップの下から傷んだ髪が彼女の顎の輪郭あたりでふわっと広がっているのが、夜の闇に映えてよく見えた。上にスカジャンをまとって、下はダメージジーンズで両足とも太もものあたりがよく見えた。

「早速行きます?」

 と、丁寧な言葉を話すのを見ると、見た目とはかなりのギャップを感じてしまうが、声は酒焼けしているのか、しゃがれたかすれた声をしていて、耳障りな感じがした。けれどもスタイルに関しては、今までにあったどの女性よりもキレイなラインを浮かばせていた。

 小野はここまでくると極限の状態に達していた。眠気が彼を容赦なく襲っていた。ゆうあさんどころではない。ここにいる女性がどんな人間であっても、彼にはその娘に対して何ら気遣いをできるような状況になかった。

「どこでも。——ついていきますよ」

「なにそれ——」

 ゆうあとか言う女性は笑いを浮かべて小野の適当な反応に返した。

「え、今日はお仕事帰りなんですか?」

「まあそんなところです。——でも夜勤明けで、眠くて仕方ないですね」

「そんな状態で大丈夫なんですか?」

「わかりません」

 小野がそう言うと、彼女はまた顔を緩くして笑った。嫌味な感じはしなかった。

「そしたらそこ左です」

「——はい、わかりました」

 小野はまるで新入社員のようなの異様な態度の硬さを態と出して冗談交じりに彼女に話すと、彼女もその冗談を理解したのか手をたたきながら笑って冗談を促した。

「いいから——、あまり大きな声出さないで」

 小野には珍しく愉快な心持になっていた。

 そして二人は夜の街に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る