第14話
小野は特段彼女自身に関してのことは興味なかった。けれども、こういうサイトからやってくる人はどんなことを考えているのか、興味があった。殊に自らのことを一も二もなくオカシナ人間だと評するからには、そこを訊いて欲しいと言わんばかりではないだろうか? 疑問をずるずると引っ張ておく必要もない。どうせこれきりだ。——そう思うと小野は彼女のことをずけずけと訊いてみても損はないだろうと思って、不思議と何も考えもせずに物を尋ねた。
「あなたの何がおかしいのよ?」
「わたし? わたしよりもわたしの周りの人の方がもっとおかしいけど——」
「アナタの周りの人は僕は知らないよ。——とりあえずアナタの話を教えてよ」
「んー、簡単に話せば、わたしのお父さん。暴力すごくて、お母さんそれで病んじゃって、家に引きこもって何にもしないで薬漬けなんだ。あたしも薬してるけど——。もう薬してないとやってらんなくて——」
「それってあれか、白い粉とかの話?」
「違う違う。薬って言っても合法なやつね。覚せい剤なんかやったら、もうやばいって」
小野は別段、普通にしていてもこの娘はやばいと思った。
「で、——お父さんは捕まっちゃって刑務所にいる。あたしのうちやばいでしょう?」
小野はどうでもよかった。——どうでもよいことにどう反応すればいいのか困っていた。そして結局「ふうん」としか言いようがなかった。それでも彼女は自分の身の上話をしたいらしかった。しかし、それを訊いたのも小野であったから彼から彼女の話を止める余地もなかった。
「——でもねぇ。あたしもそうだけど、友達もやばいかな、いやでも、あたしが一番やばい」
話が的を得ないのは彼女の出所を感じさせるところだろう。
「それで、なにがやばいの?」
取り繕いの質問を彼は投げつけた。この話に見えてくるものがないせいか、適当の言葉を投げておかなければ終わりが見えそうになかった。彼はしかし、続きの話にもほとんど耳を貸すことができなかった。とりあえず彼女は「やばい」を連呼していたし、小野には何が「やばい」のかほとんど理解できなかった。ただ、この娘の両親に不幸があって、この娘も不幸だということだけが彼の中で印象的に残っただけであった。
ほとんど話をうわの空で聞いていると、彼女のバスタオルがはだけ、そして小野は不意に彼女の身体をまじまじと見ることになった。それはブヨブヨになった腹回りの贅肉とその形に刻印されている無様な皴の数々を目に焼きつけさせた。彼女の顔に関してはあまり文句を言うべきではないと思っていたが、この醜悪な体躯に魅せられるものが何もないことは小野の目にも明らかであった。彼は目を背けたが、腹に残る醜悪な皴の数々は頭から離れずにいつまでもその女のイメージとして焼き付いてしまい、もうどうにもできない思いで、彼は服を着ることにした。
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