第12話
鍵を開けてドアを開けると、すぐにスリッパが目についた。狭い入口だと小野は思った。彼女は構わず部屋に入りタバコを吸い始めた。小野はそこで初めてこの娘の素顔を見たが、やはりサイトに載っている顔写真の彼女とは似せようとしても似つかない顔であった。そしてそれは身体のスタイルにおいても同様のことだった。
彼はこの作りこまれた状況に表と裏を感じてやまなかった。当然のことながら、彼女が業者から派遣されてここまで来ていることは明らかだった。
小野は部屋の状況を確認しながら荷物を籐の椅子の上に置いた。そしてその荷物の中から貴重品だけ抜いて話した。
「先にシャワー浴びるけど、いい?」
「どうぞ——」
「みかんさんは?」
「あたしは遠慮しておきます。——浴びてきたから」
小野はシャワーを浴びる前に携帯の画像を確認してみた。髪の色も目つきも体つきも肌の色も、何もかもが写真と違っている。
蛇口をひねると冷たい水がまず噴出され、小野の足元を濡らした。
「やっぱり全然違うな——」
勝手に言葉が漏れているのに気が付いた。小野は俄然笑いが込み上げた。初めから期待はしていなかったためか、それ以上何の感情もわかなかった。普通であるなら金銭の問題もあるわけだ。ここで憤懣を漏らして罰は当たらないようにも思えるが、初めから失望していた彼にはこの先どうなるのか、ということがむしろ気にかかった。
「ずいぶん長いですね——? 髪まで洗ったんですか?」
「ああ、仕事上がりで全身汚いからな——」
「そんな人初めて見ました——」
小野は——そうだろうか? と思った。彼の性分からして、間借りの部屋に何の準備もない二人がするのに、身体を流しておくのは当たり前ではないだろうかと思った。しかしながら、たがいに何の関係もなかった二人があと腐れもなくその後を終わらせるのに関して、確かにひとつひとつを丁寧に仕上げるより、そこだけを目的とするのはとても理にかなったことなのだろうとも思った。しかしそれでも自分の汚い身体がこの娘の身体にぶつかること自体、小野は嫌だった。そしてこの娘の臭そうな汗が触れることも同様のことであった。
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