第10話
実際にこのサイトで出会えるとは思っていなかった小野は、本当に出会えた点と、以前に別のサイトで会った醜悪な商売女を思い出していた。別段出会えるまでのやり取りはほとんど関係ない。彼は行為まで至るスリルが面白くてやっているだけだ。あるいは行為しか興味ない輩も多いはずである。または、小野はただ騙されていることを知りながらも、何かしらに意欲的になっている自分を見出して、若さを誇っていたいという自己欺瞞のための行動をとっている。しかし彼女らは自らの小遣い、あるいは生活のために体を張っている。男の欲を利用して――。そして、小野からしてみればそれだけである。男は客ではない。どちらかといえば金蔓でしかない。小野にとって彼女たちはそういう輩である。
そしてこのみかんとかいう女性も彼にとっては例外ではなかった。
「わたし、この辺は土地勘がないんですが、どこかあてがあるんですか?」
「???——え? ホテル?」
「はい、そうですが――。」
「ああ、少し離れたところですから——」
行き先が決まっているとなると小野からはもう話すことは何もなかった。しかし彼女の方は何か話をつなげなければいけないような気を持っているらしく、つまらない話を続けようとしていた。
オリンピックを過ぎてから、真新しい事業が出てこないというのも、世の中の実情だったと思われる。加えてこの感染症の蔓延で、外出制限やら、自粛を言い渡されている巷の人々からすると、この国の都心部には浮浪者も溢れているというのはごく自然なことなのだろう。ことに最近はネットカフェ難民が多く、女性も例外ではないようである。このご時世、出会い系も副業の一環なのだろうか? このみかんという女性の会話に見れるのは営業精神に他ならなかった。
「今日は暑いですね?」
「そうですねえ——」
小野はこの話の端に何の感慨もなく人の機嫌をうかがうようなそぶりがあることを知っていた。数か月前にはこんな営業紛いなことを言う商売女はいなかったからである。少なからず、行くところに行って、金銭の交渉をして、行為に至るだけである。それだけでよいはずであるが、陽気の話をされるとは全く彼も思ってもみなかったので、少し拍子抜けしながらもなぜか真面目に答えてしまっていた。
「でも私は夜勤でして、昼間は暑い方が凝り固まった体にはちょうどいいです」
そして心の中で小野は何を私はしているのだろうか——、と不意に感じさせられるのであった。
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