第6話

 いつまでも絶望している。

 どうせ私は世の中には役に立たない。そんなことはよく知っている。生きていても意味などない。だから彼は何もしないことにした。そうすることで、彼自身本当に必要とされないことが証明できると思っていた。実際小野にとってそう思っている方が楽だったからだ。大抵の人間は出来るやつに対して、できるからと面倒をぶん投げてくる。そんな輩が小野は嫌いだった。自分ができるだとか、できないだとか、他人のイメージなどどうでもいい。それよりも他人がどうこう考える人間は人間という個体として精神的に貧相だ。他人を気にすることで自分を比べてかかっている。問題は自分を自分と比べることだ。今の自分はどうだ? というぐあいだ。今の自分はどうだから、これからこうしよう。と言う思いがなければ反省は生まれない。二項対立の世界であればそれは生と死にあたるが、多様性の時代では積み重ねて、置き換えるとか、やり直すよりやり替えるとか、柔軟な考え方ができるはずである。

 だから小野の絶望も役に立たないことも、言い換えれば他人に役目を譲っているわけだ。前向きに考えるのであれば、役目を譲ってやれるようにすることが彼の仕事とも言える。

 ときに他人立てるのも必要なことであるから——。



 大都会の一駅で、小野はいらだっていた。

 疲れていた。今の仕事始めてから半年になっていた。最近はいいことなど一つもない。結局のところ金が欲しいからするだけである。あとは単調な毎日が続いている。

 しかし今日の目的もそれと同じである。彼は楽になりたかった。彼女は金が欲しいから頑張るのである。金が欲しいのは小野ではない。彼女である。

 スマートフォンを開けば彼女の言葉が連なっている。

「まずは2~3万円が欲しいのですが。よろしければメールします」

 何分犯罪めいた言葉だ。世の中そうクリーンではない。

 結局のところ、ばれなければなんでもありを合言葉に、有象無象がこの大都会にはびこっている。金の流れにはびこる蠅か蛆か――。小野もそのひとりである。

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