第4話
窓は西側にあり、どうしてこんな作りをしているのだろうかと彼は思わなければならなかった。それというのも、遠くに見える大山系へ沈む夕日が部屋の全てをギラギラと照らすからに他ならない。倉庫の仕事は朝4時までに、その日注文があった冷凍食品を仕分ける作業であるのだが、配送されるトラック最終便が午後4時であるがために、出勤はその頃からとなり、22時までの準夜勤の体制が布かれている。
出勤すると更衣室で作業着に着替え、食堂で夕食を取るのだが、この夕陽がとても厄介である。眩しい目をしながら、コンビニのちょっとしたパンやらサンドウィッチを頬張らなければならない。 彼は西陽の強烈にやってくるその窓から厳しい顔を出して、敷地の沿道の向こうにある墓地を眺めた。
墓地の景色を見たとして何も思うことはなかった。雑木林が背面を覆って、辛気臭さを余計に漂わせている。しかし、そんなことより小野は暮れていくそれらの景色を見ながら進歩のないこの時間を憂いた。
——私は何者だろうか。
彼の中では常にその問答を繰り返した。将来という問題に関してなんのイメージも沸かず、今という時間を味わうことが唯一の彼の楽しみだった。 私は何者にもならないけれど、今の私は仕事をしながら生きている。 と、小野はそれだけでどうにか自分の精神を維持していた。
ビーと小さくて高い電子音がなり始め、フォークリフトがパレットをどんどん運んでくる。薮内という若者ががコンベアにベージュの紙の箱を投入していく。それはある機械を通おして、バーコードを読み取ることで、9桁の仕分け番号のステッカーが貼られていく。やがて上りのコンベアの途中からホールへ呑み込まれ、架台上を流れ、折り返してくる。折り返してきたレーンが仕分けレーンであり、センサーがバーコードを読み取ることで、分岐のレールが反応し、各レーンのローラーコンベアへと流れ落とすのである。1レーンは佐野さんが当たっていたが、たいてい一番最初のパレットはアイスロックであるため、突然二桁以上な個数がひとレーンに流れてくることがある。それが落ち着くと各レーン餃子やらピラフやら今川焼きやら生パスタやら様々な冷食がベージュの紙の箱に入れられたまま流れてくる。
しかしこの日流れてくるものはいつもと違うものがいくつかあったのである。 朝礼のときに総数が言い渡される。我々が仕分けているのはBチェーンとSRチェーンの冷食でBチェーンに至っては2バッチ、SRチェーンは1バッチで、6千個のベージュの紙箱を処理するのだが、年末はそうは行かない。大抵Bチェーンは3バッチ、SRチェーンは2バッチ、箱の総数は1萬6千個に膨れ上がる。定時は22時であるが普段でも24時くらいにはなる。しかし年末と来たら1万6千個である。全てさばく頃には配送のトラックが入荷口のシャッターを開けているくらいだ。時計の針が4時を指すころである。
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