第3話

 丘陵地帯のこの地域は、大昔は稲作農耕が盛んで、今でも田畑が大きく見える場所もある。バブル期の開発で、タワーマンションやら公団の集合住宅や、簡易に組み立てられるシステムハウスなどの戸建てが連なっている。都心より電車を使えば1時間かからない位置にあるこの街は、景色こそ変わってしまったが山の中だ。

 先日路上でたぬきが死んでいた。車にひかれたことはすぐに分かるが、たぬきなどひかれた姿でなくても親子連れのものが市街地に頻繁に見られる。

 最近都心は再開発だの、オリンピックだので大勢に街を作り直しているようだが、このへんはやっとのところ公団が土地を手放して、商業用の建築物が立ち並び、緑の腐ったネットフェンスが外され、生け垣やら縁石が丁寧に配置され、しっかりと乗り入れや駐車場が舗装された。日曜祝日はそんな商業施設が密集しているために、道路に車が並びまくっている。そのために丘陵の縁を走る幹線が渋滞するにも関わらず、車線整備が行われないのは、このH市に資金がないためである。ニュータウンは開発後整備費がかかりすぎて、費用削減のためすぐさま街は雑草だらけになったし、舗装という舗装はすり減りが激しく補修されないままザラザラした砂埃を巻き上げている。

 丘陵の縁を沿って通るその幹線の際、先は大河がこうこうと流れる平野になる。その手前には小山という土地がある。その一角の谷戸は大沢字とあり、高低差のある土地が延々と続いていた。大沢字の大沢はその大河へ下る源流で、源流は大池となる湧き水のある池である。そのあたりに、高架がかけられたのはついに3年前のことであった。

 ここは確かに大沢という地名だ。谷戸は確か大池から水をたたえて平野の川へと流れ、やがて海へとたどり着くだろう。高架の下、谷戸となるところから別で人工的に造成された小高い丘の上にその倉庫はあった。ざっと見て1万平米はあるその土地はM社がこの辺一帯を拠点とするために建てた倉庫のひとつである。明け方4時頃になればたくさんのトラックがそこにやってきて、この人口一挙集中の都内へ氷点下の中で固めた食品を運び出すわけだ。

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