第2話 注文継続、承わりました。

今日もいつものようにシャッターを開ける。


小雨が降る朝。


少しテントを広げて軒先に笠立をだすとすぐに傘が置かれた。


「あ、あのもう開店してますでしょうか?」

「はい」


正直なところ、新刊の荷物の封を切っていないから朝一のお客様の期待には応えられないことが多い。

大概のお客様は新刊の棚を見ては駅前の大型書店に行ってしまう。


でも、このお客様の用件はだいたい察しがついていた。


「あの、開店早々すいません。注文していた本なんですが、もしかして入荷していないかな....気になりまして」


お客様は26歳くらいの大人しそうな男性で、スーパーの2Fで売っているような薄水色のシャツを着て、少しだけ伸びた前髪はくせっ毛跳ね上がり、腕は細くて白い。

でもシャツはパリッとしているし、足元も綺麗な靴を履いている。


私はその人の『人となり』は靴を見ればわかると思っている。


「少々お待ちください。今確認いたしますね」


おばあちゃんが注文する際に一緒にしたためている『事成ことなりノート』を覗いてみる。


「お客様のお名前は?」

美澄みすみです。美澄 言葉ことはです。」


『みすみ ことは』 実は名前も もう知っていた。


「美澄様、ご注文の本は重版の予定が無く在庫を確保するのが難しいようです。一応、再度注文はかけているのですが....いかがなさいますか?」

「そうですか....では、もうしばらく待とうと思います。お願いいたします」


「あの..」

「はい?」


つい、『駅前の大きな書店でお求めになられては?』と言葉にしそうになったが飲み込んだ。大切なお得意様をわざわざ遠ざけることもない。

それにちょっとだけ、いい感じだし。


「いえ、もし入荷したらすぐにご連絡差し上げます」

「よろしくお願いします。ちょっとお店の本見てもいいですか?」


「どうぞ、ごゆっくり」


いつものように週刊誌、月刊誌の棚を整理しながら『どんな本を見ているのだろうか?』と気になった。


(やっぱり....)


美澄さんは絵本・童話のコーナーでひとつひとつ本を手にしていた。


私の気配を察した美澄さんは、ぽそりと私の疑問を晴らしてくれた。


「ここは童話がたくさんあっていいですよね。他の書店には置いていない海外作家の本も揃えてくれていて..」

「ありがとうございます」


なるほど....だからここに来てくれるんだ。


そして私自身が『青葉書店は少し絵本・童話が多すぎじゃないか?』と思っていたのだが、

やっぱり青葉書店は絵本・童話が多いのだ。


絵本・童話コーナーをひと通り見ると最後に、美澄さんは文芸書の棚から詩集を手の取ると購入してくれた。


「この本も欲しかった本なんです」


その笑顔についこちらも笑顔になってしまった。


「ありがとうございました」


美澄さんが帰った後に本の注文票をもう一度見てみる。


『注文票「雨粒の中の妖精たち ショーン・J・バック 偕進社」 ※再・再注文 ※事成ノート有 美澄言葉様 090-〇〇〇1-9876』



私は事成ノートに新たに書き加えた。


『4月26日 美澄様ご来店。注文確認。注文継続。 受付 青井万理望まりも ※詩集をご購入してくれました。』

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