青葉書店開店します。壱『万理望の恋事情』
こんぎつね
第1話 青葉書店開店します。
東京都渋谷区笹塚駅。
京王線と都営新宿線が折り重なるこの駅は、様々な人が電車を乗り換える。
駅近くにある商店街。
そこに佇む小さくもなく大きくもない、中くらいの本屋。
ここの看板娘だったおばあちゃんも最近は「少し大変だねぇ」弱音を言うようになった。
だから今は私が新しい看板娘として、ここの青葉書店のお手伝いをしています。
最近、みんなは駅前にある大型書店で自分の好きな本を見つけてしまう。
ここのような個人経営の本屋さんは数を減らしつつある。
私は、ただ、もう少しだけこの商店街に青葉書店の看板を置かせてほしいだけ。
そんな思いで本日も営業いたします。
朝、10時。
ガラ カラ ガラ カラ!とシャッターを上げる。
先日、斜め前の鈴木商店さんの鉄平さんが潤滑油CRI-665をシャッターレーンに射してくれたおかげでかなり滑りが良くなった。
「おはようございます。いい天気ですね」
一軒隣のやよい生花店の義男さんがこちらを見てニコニコしている。
時折、半端になってしまった花を持ってきてくれるのだけど、一回立ち寄るとおしゃべりが長くて、終いには奥さんの小百合さんがカンカンになってやってくる。
これはいつものお約束。
今日は持ってきてくれた黄色いフリージアが店内を明るく彩ってくれている。
開店一番の仕事は中央に並ぶ雑誌棚の整理。
少ないスペースを有効活用しなければ運ばれてくる新刊が入らない。
5日過ぎた週刊誌、発売日間近の月刊誌、旬を過ぎたMOOK本も抜いておかなきゃ。
最近はおばあちゃんの抜き忘れも多くて私が整理してあげなければ棚がパンパン状態になっていることも多くなっている。
酷い時には3月号と4月号が両方平積みされていることもあるのだ。
その作業をしてからお店の横に設けられた配送スペースからビニール梱包された雑誌と箱詰めされた新書・文庫を持ってくる。
雑誌と月刊誌をだして、最新の新書と文庫、そしてお客様からのご注文の本をとりわける。
最近はコンビニでさえも雑誌に立ち読み防止の施しをしているが、青葉書店はそれをしない。
立ち読みだけは困るけど、みんなが自由に出入りできる雰囲気を大切にしたいんだって。
おばあちゃんの方針だ。
そして客注の本にお客様カードを挟んで、順次連絡をしていくのです。
「お客様、ご注文の本が入荷いたしました!」
*****
こんな朝をおばあちゃんは何十年も過ごしてきたんだなぁ、このお店で。
でも、大変なのはこの後!
この超絶暇な午後の時間とどう戦うかってこと。
お客さんが1時間に2人も来たら上出来なお店だとしても、さすがにレジカウンターでうたた寝するわけにはいかない。
そこで私の暇つぶしアイテムはB5ノートとこの鉛筆。
これで旅雑誌の風景から週間漫画誌のキャラクターまで、絵にして過ごすのです。
こんな感じで今も青葉書店は営業しています。
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