第3話 午後ティー どうぞ。
私は高校2年生の時に中退してしまったわけだけど、中退後は部屋に引きこもることはなかった。
それはこの青葉書店のおかげかもしれない。
私だって気分次第で中退したわけでもない。
よくある後ろ向きな訳があっての事。
親は理解してくれたものの、昼まで布団を温めておくこともしたくはない。
私の中退の話を聞いて笹塚のおばあちゃんがすぐに電話をくれた。
「暇をしているならお店を手伝ってくれないかい?」って。
私はすぐに青葉書店に駆けつけてお手伝いを始めたってわけ。
去年までは、おばあちゃんと2人でお店に出ていたけど、最近は私一人に任せている。
時々わからないことがあるときは奥の部屋でお茶とワイドショーを見ているおばあちゃんに聞きに行く。
私が一番困るのはお店の敵である万引きだ。
私が手伝う前は、コミック新刊が入ると好きなだけ持っていかれてしまったようだけど、今は決して許さない。
万引き犯を捕まえると、警察に通報したいけど、この青葉書店ではそれはしない。
おばあちゃんの方針だ。
甘すぎな気もするけど、この書店のボスはおばあちゃん。
私はそれに従う。
ただ、私やおばあちゃんが厳重注意しても万引き犯になめられてしまう。
そんな時は強面の鈴木商店の鉄平さんの登場だ。
その腕、その首、その顔は・・・ちょっとやばそうな人に見える。
さすがに万引き犯も大人しく反省してくれる。
しかし、この前はちょっとどうしていいかわからないことが起きた。
私がお手洗いからカウンターに戻ると、中学1年生くらいの少年がお腹を押さえながら足早に店を出ようとした。
「あっ!やられたかも」と思い追いかけると、その万引き少年は店前道路で
バサバサと音を立てる2冊の....その....エッチな雑誌が落ちて来た。
『女子高生18歳の○○な〇体』
商店街にエッチなページを開いて落ちる雑誌と尻もちをつく万引き少年。
その様子を見ながら通り過ぎる学生や主婦たち。
美澄さんは落ちた雑誌をまとめ手に取ると、わざとみんなの前で自分のカバンにしまった。
そして少年を起こすと青葉書店に入ってきた。
美澄さんは少年に何か言い聞かせてくれていた。
少年は私に「どうもすいませんでした。」と謝ると足早に駆け去った。
「あ、あの....本、お返ししたほうがいいですよね」
「はい。まぁ、商品なので....」
美澄さんはカバンから2冊を取り出すと恥ずかしそうに指先で突き出した。
チラっと顔を見ると赤くなっていた。
私はそれ受け取るとカウンターに置いてある本の下に隠した。
「あの....なんで、わざわざカバンにしまったんですか?」
「あの子の知り合いがいたら可哀そうだと思ったからですよ。さすがにあの本で万引きして捕まったなんて学校で広まったら悲惨ですから。その点、僕みたいな奴がああいう雑誌を持っていても普通でしょ」
「普通なんですか?」
「あ、あの年齢的にってことですよ!」
「ふふ。わかってますよ」
私は奥の部屋から冷えた『午後ティー』を持ってきた。そして....
「 ありがとうございます。はい、これ、どうぞ 」
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