第89話 息子たちの育児 第3章 10

季節は冬になった。


私は次男と2人、部屋で寝ている。

次男がインフルエンザになり私に伝染った。

長男とカツオに伝染らないように配慮しようにもひとつ屋根の下だ。

一家全滅も時間の問題か…と思っていたら2人は伝染らなかった。

やっと幼稚園と療育センターに通えるようになったと思ったら私はまたインフルエンザになり

熱は40度まで上がった。ここまで熱が上がると脳が煮えそうなのがわかる。

……40度は人生で2度目だなぁ。

そう思いながら意外と動ける体で昼食を作る。

本当は卵がゆが食べたいが私が休む=次男も休みなのでおかかがゆにした。

……マラソン大会までには間に合いそうだな。


12月はマラソン大会とクリスマス会と12月生まれのお誕生日会もある。

心配なのはマラソン大会だ。

去年のマラソン大会でわかった事は、長男はちんたらヘラヘラとビリ同然で走るということ。

その姿を見てクラス委員の友達や仲良くなったママさん達と一緒に笑っていた。

「長男くん~、やる気ないじゃーん!」

「ほんとそれ、ヘラヘラしてたよね」

「ふざけてるところ写真撮ったから送るよ」

「本人に見せたるわ!」

長男はきっと今年もこの調子だろう。

名は体を表し過ぎている。

問題は次男だ。

ヨチヨチが完走できるのだろうか。

でも私も先生も自分の足で完走させる意向なので当日どうなるか本当に想像がつかない。


発症して5日後には解熱したのでまるっと1週間幼稚園も療育センターも休んだ。

前回と合わせると2週間になる。

横になっていることが多かったので筋力がかなり落ちてしまった。

マラソン大会前に通院もあり、まだ気怠い体で病院に向かう。念のためもう一度今の状態で参加して大丈夫か確認してOKが出た。

あとは次男次第だ。

この帰りのバスでカツオの奇跡PartIIIがあったことは割愛させていただく。



狭い運動場に犇めく大人たち。

コースの沿道も重なるように人がいる。

ついにマラソン大会だ。

年長、年中、年少クラスの順番で走る。

長男がスタート位置に立つ。

雰囲気からしてやる気満々の感じは皆無だ。

長距離走が嫌いなわけじゃないらしいが真剣にやるほどでもないと思っているのだろう。

元々、勝敗を気にしたり負けず嫌いな性格ではないので完走できればまぁいいだろう。

……うん。思ったよりふざけてる!

「今年も長男くんやってるね~」

「やってんね~」

コースの沿道からちんたらと近づいてくる長男をママ友と眺めながら通り過ぎるのを待つ。

友達の子供はとっくに過ぎ去っている。

ゴール前はパパ勢がカメラを構えているので私たちは沿道でみんなを応援している。

「おーい!長男くーん!頑張れ~!」

「こら!ヘラヘラしてないで走れ!」

ひゃはははー!と言いながら過ぎ去る。

……楽しそうでなによりです。


ついに年少クラスの番になった。

一応、補助の先生が1番遅い子の傍を走る。

……間違いなくうちの次男だろう。

スタートラインに立ったのかすら小さすぎて見えなかったが、ピストルの音が鳴りすぐに発見した。ビリスタートだからだ。

カツオをゴール位置に配置させて私はゴール前最後の最難関、急勾配の坂付近で待機する。

クラスメイトたちを応援しながら待つ。

待つ。

待つ、、、。

自分の子供が走り終わってその場を離れる人が多いはずなのにまるでウェーブのように遠くから声援が聞こえる。

カーブを曲がってきた次男は上を向いてグズグズに泣きながらヨタヨタと走って?いた。

いつから泣いていたのだろう。

わーわーと大きな口を開けて泣いている。

それに宇宙語でなにか喋っている。

……もう走りたくないと懇願しているようだ。

補助の先生の足にしがみついて抱っこしてもらおうとするも優しく引き剥がされている。

次男のことは園全体周知の事実。

どう見ても1歳か、2歳くらいに見える見た目で

急勾配の坂のあるマラソンをしている。

どうやら周りのママさんたちの脳内には情熱大陸のテーマ曲が流れているのか、泣いて応援している人もいた。

「次男くーん!!」

「がんばれー!!」

「もうすぐでゴールだよー!」

「あっちにママがいるよー!」

手を振る私と目が合う。

「ン マ゛マ゛ァァァー!!だっごぉぉぉ!」

「抱っこは出来ないよ!ゴールするの!」

びえーびえー

「幼稚園に戻ったらゴールだから!パパがごーるで待ってるよ!ママもゴールで待ってるからあと少し頑張って!」

そう言って補助の先生にお願いしてゴールに向かう。「感動した...」といってクラスのママさんたちがポロポロと泣いている。

特にパリピママは入園前からの友達なので余計に成長を感じたようで爆泣きしていた。

こういう人柄だから好きなのだ。

次男はグズグズに泣きながら幼稚園の敷地までやっと戻ってきた。

まるでオリンピックのような声援と拍手。

ゴール線を跨いだ瞬間さらに増す。

一目散に私を見つけ抱っこをせがむ。

抱き上げた瞬間は、母の目にも涙だ。


……2人とも、よく頑張ったね!


今日の夕飯は食べたいもの何でも食べちゃおう!の日に設定してある。

スーパーで買い出しをしてパルシステムで買っておいた食材と合わせて自宅打ち上げをした。


……ふぁ~、疲れた、、、。

……でも、良かった。すごく良かった。

……完走するとは思わなかった。


補助の先生に話を聞いたら、

「結構最初の方で泣いちゃいましたし、抱っこをせがまれましたけど心を鬼にして頑張ろうって言うとまた走り出すんです!私もう感動して泣きそうで泣きそうで我慢するのが大変でした!次男くん本当に良く頑張りました!」

ゴールで待っていた担任の先生も泣いていた。



インフルエンザで12月のお誕生日会に参加できなったので1月生まれの会にお邪魔する。

お休みしたので残念でした、で終わらせずに参加させてくれるこの幼稚園が好きだ。

もうすぐクリスマス会。

ブーツに入ったお菓子とキャンディレイが貰えることを知っている長男は次男に一生懸命に説明している。

「サンタさんがきてみんなにおかしとあめをくれるんだよ!あめはわっかになってるの!」

ひゃほーい!というテンションにつられて次男もひゃほーい!となる。



クリスマス会が終わったら冬休みだ。

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