第71話 次男の入院
眠り続ける次男を見つめる。
ピッ ピッ ピッ ピッ と電子音が鳴り続ける。
術後の容態は安定しているようだが、素人から見たら起きてくれるまで安心できない。
起きたとしても不安ばかりだ。
開胸手術により胸骨を縦に切開しているため最低でも半年間はお風呂以外のほぼ24時間、胸部コルセットを装着しなくてはいけないらしい。
これから暖かくなる季節なので蒸れてまた肌が荒れるかもしれない。
補助金が適用されるが数万円分は自己負担。
発達障害や基礎疾患がある人は補助金などがあったとしても健常者より遥かにお金がかかる。
時間も、体力も、何もかも。
眠り続ける次男を見つめる。
あんなに泣いて騒いでいたのに、今はピクリとも動かない。
……静かな次男は、嫌だ。
仕事終わりのカツオが面会に来る。
22時になったら2人で車で帰る。
家で2人きりの時間。
必要最低限の会話のみで、眠りにつく。
静かな家に慣れないからだ。
手術から4日目。
お昼すぎにNICUへ向かう。
ドアが開くとそこには、ちょこんと座りおしゃぶりを口に咥えながらアンパンマンを見ている次男がいた。
座っている周りをグルグル巻にしたタオルケットやクッションで囲い倒れない様にしている。
丸3日、寝たきりだったため自力で座る筋力すら無くなっている。
「あ!ママが来たよー!」
担当の看護師さんが次男に声をかける。
キョトンとした顔でこちらを向く次男。
頭を支えるのがやっとのようで、振り向くだけで体がグラグラして倒れそうになっている。
その時のキョトン顔は最高に可愛かった。
「起きたんですね!」
「徐々に麻酔を減らしてお座りもできるようになりましたよ!支えは必要ですけど笑」
「ドレーンも外れて、縫合は大丈夫でしたか」
「傷口は白く残ってしまうと思います。あとは根気強くしっかりコルセットしてもらって胸骨が曲がらないようにしていただければ」
「本人に頑張ってもらいます!」
ちょこん座りしている次男の写真を撮り両親に送信する。
さすがに寝たきりのときの写真なんか撮る気持ちになれない。起きた様子をやっと写真で報告することができた。
そして驚くことに開胸手術をしてから8日目に退院予定である。入院生活はあと4日だ。
……胸をパックリして8日で退院。
……たかが脚を骨折して1ヶ月入院した奴。
何だこの差は!!
つくづく腹の立つ男だ。
そして退院の土曜日。
どえらい量の粉薬が処方された。
こやつのお薬手帳はあっという間に何冊にもなっていく。
アレルギーとは別でお薬と食べ物の飲み合わせも注意しなくてはならない。
コルセットも次男のサイズに合わせたものを注文して装着している。色はブルーにした。
さすがにいきなりバスを乗り継いで帰るのは怖かったのでカツオに休んでもらい車でお久しぶりの自宅に帰ってきた。
長男は明日の日曜日に両親が連れてきてくれるので、鬼の居ぬ間になんとやらではないが、思う存分にプラレールの線路をガチャガチャして遊んでいる。
……見た目はこんな元気に見えるのに。
入院する前につかまり立ちが出来そうだったのだが、筋力が無くなったのでハイハイからやり直しだ。見ているこっちが疲れるくらい体力が落ちているのが見てわかる。
新聞の折り込みチラシを次男に渡す。
次男は紙をビリビリ破くのが大好きなのだ。
破く感覚が好きなのか、破く音が好きなのか、どちらも好きなのか、わからないけれど足をパタパタさせてキャッキャと言いながら破く。
咥えているおしゃぶりは器用にも落とさない。
手先の筋力もビリビリでリハビリだ。
翌日、長男も帰ってきた。
「これなにー?」と、指差す。
次男のコルセットのことを言っている。
理解できるかは別として、病気のこと、手術のこと、予後のことを長男に話した。
どこまで理解したのかわからないけれど、長男は次男の負担になるようなことはしなかった。
組み立てたプラレールのど真ん中に次男が居座っても叩いたり胸を押したりなどしない。
「なんかすわってるよー笑」と、既に心は大器である。
……見習おう、、、。
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